【菅田将暉】映画「そこのみにて光輝く」俳優の演技を考察【池脇千鶴】

【菅田将暉】映画「そこのみにて光輝く」俳優の演技を考察【池脇千鶴】

映画「そこのみにて光輝く」、もうご覧になりましたでしょうか?

出演俳優みんな良い演技をしていました。

綾野剛さん、池脇千鶴さん、高橋和也さん。。。

中でも特に良かったのは、菅田将暉さんです。

いきいきとした反応がすごい良い。

あれはちょっとすごいな。

この記事では、今あげた4人の演技だけにフォーカスして考察していきます。

映画の内容やあらすじについては、僕より語るのが上手い人が山ほどいますので、他のサイトをご覧ください。

どうも俳優をやっていますヒロユキです。

僕は今年で俳優歴13年目になります。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。

また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。

この記事では現役俳優の目線で、綾野剛さん、池脇千鶴さん、高橋和也さん、そして菅田将暉さんの演技についてどこが良かったのか、何が上手かったのかを解説していきます。

それでは、さっそくスタート!

出演俳優全員の演技について

まず、メインの四人にかぎらず、この作品に出演されている俳優全てに共通する点です。

何を言っているのか聞き取れない部分が結構ありました。

方言が理由のこともあるし、ただぼそぼそしゃべってるから聞き取れないこともある。

ただ、個人的にはそれが良かったと思います。

なぜなら、僕たちが住む現実世界でも、相手の言うことが聞き取れないことがあるからです。

聞き取れなくても、視線や表情、身体の動きでなんとなく伝わったりする。伝わらないこともある。

聞き取れないくらい小声で話すということ自体が、一つの意味も持ちます。

相手に言葉を届けようとして発していないということ。

僕らもたまにありますよね。

誰かと会話しているとき、「別に拾ってくれなくてもいいや」と思って、ぼそっとつぶやくこと。

この作品内でも、同じようなリアルな空気感がありました。

これが、映画全体に漂うダラダラした感じを生み出し、日常のようなリアリティを感じさせる要因の一つになっていると思います。

決して、どの映画でも聞き取れないからリアリティがある、と言いたいわけではありません。

この作品の世界観にマッチしていたから、良かったのだと思います。

例えば、もしこれが声優だったら、何を言っているのか聞き取れないのは許されません。

どんなに100点満点の芝居をしても、確実に録り直しです。

声優は本当に滑舌が命。声でしか表現できないですからね。

俳優と声優は、同じ演じる職業ですが、役作りも現場の考えもまるっきり違います。

綾野剛さんの演技について

綾野剛さんはリアルな芝居をする方だと思いました。

ちゃんと相手の言っていることや、表情、動きを受け取って、それを感じてから動く。

僕らが日常生活で、自然と行っている対応を丁寧にやっている感じです。

実際インタビューでも、こう答えています。

「達夫は受けの人、こっちから発信していくことはまずやらないので、相手が放つことをすべて受けることでした」

出典:映画.com様

感じてから動くというのは、リアリティを保つうえでとても大切です。

しかし、僕の感覚では間延びしているシーンがいくつかあったように思います。

監督は、その間の長さがリアルで良いと考え、採用したのでしょうが、ちょっと長すぎかなと思う部分が正直ありました。

芝居では、しゃべる速度や間の長さを表すときに、「テンポ」という言葉を使います。

テンポの速さを変えることによって、作品的にも役的にも変化を及ぼすことができます。

たとえば、テンポを速くすれば速くするほど、「焦っている」「切羽詰まっている」感じが表れてきます。

また役者自身も、そのように感じてきます。

つまり早く話すほどに、心が慌ただしくなってくるわけです。

逆に遅くすれば遅くするほど、「思慮深い」「重みのある」もしくは「間が抜けている」演技になります。

リアルさに捕らわれると、基本的に間は伸びやすくなります。(テンポが遅くなります)

なぜなら「もっと感じてから動きたい」と思ってしまうからです。

急いでセリフを言ってしまうと、嘘くさくなってしまうんじゃないかと躊躇が生まれてしまうんですね。

どっちが良い・悪いではなく、作品をどういう風に作りたいかという監督や演出家の意図によってテンポは調節されます。

シーンの間延びを感じたと言いましたが、そうは言っても基本的には良い演技でした。

とくに綾野剛さんは身長もあるし、そこにいるだけで色気というか魅力があります。

役というより、役者の持つ存在感がありますよね。

今回の役は無表情なことが多いので、黙ってると機嫌が悪いんじゃないかと怖くもなりました。

だから、たまに笑顔が見えるとホッとしますね。

池脇千鶴さんの演技について

めちゃくちゃよかった!

作品全体通して、心から役の心情を感じて動いていました。

特に間延びしてるところも見られません。

池脇さん演じる千夏という役は、人生を諦めているのがベースとなります。

でも、諦めながらも自分の中に残っているプライドがあったり、幸せを求めたり、家族を大切に思ったり、恋をしたり。

諦めていることで、人生全てを塗りつぶされているわけではありません。

あくまでベースとして「諦め」があるだけで、それを持った上で千夏として生きています。

また、人生に対して、もがいてなんとか変えたいというキャラでもありません。

現実に起こることに、淡々と対応していく。

ベースは、あくまで「しょうがないか・・・」くらい。

なるようにしかならないと思っているはずです。

池脇さんくらいの女優であれば、何ら問題ないことだと思いますが、この「諦め」とか「孤独」とか暗く沈んだ役を作るのって、実は失敗しやすいです。

そういったネガティブなだけのキャラクターになってしまう。

例えば、あなたが台本を渡されたとします。

そして、あなたに与えられた役の人物は暗い性格だとします。

そうすると、当然「暗い気持ちを作ろう」と思って役作りを進めていくのではないでしょうか。

暗い役なので、暗い気持ちを作るのは正しいのですが、演技歴が短いとそれだけになってしまいがち。

暗い役は、ベースが暗いだけで、それが全てではありません。

根暗な人物だって、友人と会うときとか、上司と話すときとかは、気を使って少しでも明るい自分を見せとこうと思ったりします。

時間や場所によっても差が出てきます。

深夜12時くらいになるとちょっと元気になったりとか、本屋で目当ての本を買って家に帰る間はちょっとウキウキしてたりとか。

このように、暗い人間の中での明るい部分もあるわけです。

暗い人なりの明るさみたいな。

この、池脇さん演じる千夏は、まさにそんな感じ。

ベースとしては、人生に対する諦めがあるんだけど、その中で一つ一つの物事に対し心が動いている。

こういうところから役のリアリティが生まれてきます。

また女性は、男性より丁寧に役を作る人が多い印象があります。

特に感情のひだを丁寧につくります。

逆に、キャラクター作り(キャラクターライゼーション)は男性の方が得意です。

今回の池脇さんはまさに、感情を丁寧につくって撮影に臨んでいるよう感じました。

キャラクターはとくに変わったキャラではないので、特別書くことはありませんが、感情部分は丁寧にしっかり役に向き合って作った感じを受けました。

それと、寂れた海辺のバラックに住んでる生活感も、にじみ出ていて良かったです。

多分、この役を演じるために体重も増やしてますね。

高橋和也さんの演技について

いやぁ、うまかった。

この作品観るまで名前知らなかったんですけど、上手かった。

元々ジャニーズの男闘呼組というロックバンド出身なんですね。

あのねちっこい小物っぽさ。

千夏に対する態度、知り合いの社長に対する態度、(菅田将暉演じる)拓児に対する態度がそれぞれまるっきり違っていてリアル。

これこそキャラクター作りです。

池脇さんが感情メインなら、高橋さんはキャラクターメイン。

とはいえ、役の感情部分も違和感を覚えることなかったです。

総じて、いまいちなところも見つかりませんでした。

あ、車のなかで千夏を殴るシーン。

手を振り上げてから、振り下ろすまでの間はちょっとおかしかったかも。

感情と動きがリンクしてなかったように思えます。

実際に殴るわけにはもちろんいかないんで、役者としての理性が働いて躊躇したんだと思います。

なんか一瞬止まってました。

「拳を振り下ろすタイミングなんて人それぞれなんじゃない?」

と思うかもしれません。

それはその通りです。

ただ、拳を振り上げてから降ろすまで長い間があったとしても、感情が流れ続けていればその動きに「意味」が発生します。

「役が葛藤しているから、すぐに殴れないんだ」

という理由が見える感じ。

拳の角度なのか、目線なのか、息遣いなのか。

僕自身もどこで判断してるのかわからないけど、やっぱり自分も演じる仕事をしていると、本当の感情が流れてるかどうかわかります。

あのシーンでは、その感情の流れが止まってました。

ま、でもそこくらいです。

他は全部良かったです。

菅田将暉さんの演技について

ちょっとおかしいくらい上手い。

冒頭の自転車に乗りながら家に向かうシーン。

もうこの時から、菅田ワールドですよ。

キャラクター

自転車に乗りながら函館弁(?)で、ずっと話してるんですが、もうそこでヤバさを感じました。

自然過ぎる。

演じてるように全く見えない。

普通、どんな俳優でも役に近づこうと役作りをしていきます。

でも菅田君の場合は、役が力を貸してるんじゃないかと思うくらいリアルでいきいきしてる。

「片田舎に住むヤンチャな若者を本当に連れてきたの?」ってくらい自然。

函館の方言すら役作りの障害になってなくて、より理想的な演技のために力を貸してるみたいな。

一言で言えば、

「いるいる。こういうやつ」

です。

役の説得力が半端ない。

意識の方向

他の役に対してのリアクションも瞬発力があってはっきりしてます。

これは、この拓児という役柄がそうだというのもありますが、やっぱり菅田君の演技力の高さが一番の要因です。

この演技力を具体的に言うと、周囲の物事に対しての意識の持っていき方が、日常と全く変わらないということ。

カメラが回っている撮影という状況では、ついつい日常では意識するべきところにしてなかったり、逆に意識しないところに意識しすぎてしまうことがあります。

どういうことか簡単に説明してみますね。

今思いついた適当な例で恐縮ですが、

あなたが、コンビニでおにぎりと菓子パンを買ったとします。

そしてレジに持って行き、

「178円です」

と言われたとします。

あなたは財布を開き、小銭で178円を探そうとします。

面倒くさかったら200円で払っちゃうかもしれないし、千円札を出すかもしれない。

ただ、思考の流れとしては

①「178円か、ちょうどあったかな」

②「うーん、なさそうだな。200円でいっか」

となるはずです。

しかし芝居では、脚本上に

・コンビニ店員「178円です」

・あなた、200円を出す。

と、セリフとト書きがすでに書かれています。

こうして、178円を一旦探すという逡巡が消え、さっさと200円を出してしまいます。

なぜなら脚本を読んで、正解の動作をすでに知っているから。

こういった日常と同じように意識を向けるシーンは、作中通して何百か所も出てきます。

どのシーンでもかならず意識の方向を試されます。

例えば、この「そこのみにて光輝く」だったら、物語冒頭、拓児が、綾野剛演じる達夫を家に連れてくるシーン。

そこで達夫は千夏と会います。

この時拓児は、

「腹減ったから姉ちゃんに何か作ってほしい」

とセリフを言いつつ、達夫と千夏がお互いにどう思っているのか、飯は何が出てくるのだろうか、すぐに食べられるのだろうか。

など考えている。

チャーハン(?)が出てきた後も、達夫がなかなか食べ始めないから、「ほら、さっさと食べろよ」とスプーンで達夫の皿にチャーハンをよそってやりつつ、自分は自分で食う。

そして、達夫と千夏の反応がちょっと面白いことにも気づいて、どっかでからかってやりたいみたいな気持ちも芽生えている。

日常じゃ、当たり前のこの感情のながれ、意識の方向。

これが、芝居だと何かが欠けたり、どこか一つを優先しすぎてしまいがちです。

この点、菅田君は完璧。

拓児というキャラクターを演じつつ、見事に意識がパッパッパッと切り替わっている。

これがリアルな演技を生みます。

感情

(まだ映画観てない人注意。ここからちょっとだけネタバレ含みます)

拓児が達夫のアパートのドアの前で泣くシーン。

タバコの火うんぬんの話をして、笑顔も少し見せる拓児。

そして、、、急に泣き出す。

泣く準備をせず、いきなりあの感情が出てくるのはすごい。

芝居というのは、泣くところからシーンが始まるのは演じやすいです。

カメラが回ってないところで感情が作れるので。

または、シーンの最中にだんだん感情が高まってきて泣いてしまうのもわかります。

ただ、この映画のシーンは、ちょっと笑顔を見せたあとにいきなりの号泣。

演技歴が短い俳優だと、嘘でやるしかないんじゃないかな。

つまり、感情が来てなくても泣いている演技をするということです。

そこそこ経験のある役者なら、できるけど、結構大変です。

いつでも号泣できる準備をしてからの、偽りの笑顔の対応って感じかな・・・

難しいシーンです。

さて。

今、キャラクター、意識の方向、感情と3つに分けて話しましたが、

これらどれか一つが飛びぬけていたら、それだけでいい芝居だと世間で言われるものです。

彼、菅田将暉は三つともすごい。

この3つが役のノリに繋がってきて、本当に拓児がそこに生きているように見える。

間違いなく日本の二十代最高の俳優です。

まとめ

今回は、映画「そこのみにて、光輝く」の俳優陣の演技について解説しました。

基本的に、どの俳優も演技上手かったです。

個人的トップ2は、菅田将暉、池脇千鶴。

さて、この記事を読んで、「演技の上手い下手ってどこで見極めることができんの?」と思われた方はこちらの記事をご覧ください。

詳しく説明してあります。

そして、僕が思う日本の演技が上手い男性俳優TOP5はこちら。

当然、菅田君も入ってます。

オススメ作品も併せて紹介しているのでご興味があったらご覧ください。

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