【こんなに違うの!?】俳優と声優の演技の違いを現役俳優が答えます

【こんなに違うの!?】俳優と声優の演技の違いを現役俳優が答えます

この記事は、

・声だけで演じるのが声優なら、俳優はみんな声優もできるの?

・アニメで俳優が声当ててるの下手に聞こえるんだけど・・・なんで?

・声優の舞台もあるけど、演技さえできればどっちもできるものなの?

こんな疑問をお持ちの方に向けて書いていきます。

この記事を読むとこんなことがわかります。

俳優が声優の仕事をできるとはかぎりません

②声優が俳優の仕事をできるともかぎりません


③というか、俳優と声優は全く中身が違います

どうも俳優をやっていますヒロユキです。

今年で俳優歴13年目。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。

また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。

2020年には、e-sportsを舞台にしたラジオドラマ「pop thank culture you」を製作しました。

このとき僕は声優初挑戦で、主役の声を当てたんですが、すごく難しい!!

俳優として培った経験がほとんど使えないんです。

以前から、声優経験のある友達に「俳優と声優は違うよ」とは聞いていました。

でも、やってみると聞いていた以上に違いました。

異なるポイントはたくさんありますが、原因はこの2点に絞られてくると思います。

・演じている姿が見えるか見えないか

・役作り期間の長さ(現場数の多さ)

それでは、さっそく語っていきます!

声優という僕の専門外の話なので、ちょっと緊張・・・。

記事を読んでくれてる声優の方、気を悪くしたらごめんなさい。

俳優が声優の仕事をできるとはかぎりません

俳優経験がどれだけあっても声優の仕事ができるわけではありません。

正直、数十年俳優をやっている方であっても、声優の養成所レベルの技術に達することすら難しいと思います。

理由はこの3つ。

①声優ならではのテクニックがある

②声優は演技の器用さが求められる

③声優は1にも2にも「滑舌」

声優ならではのテクニックがある

人の目に映る演技をする俳優と違い、声優は映像に声を当てるのが仕事です。

そのため、役が本当に生きているように音だけで演じなければいけません。

音の加工

例えば、咀嚼音や水を飲む音。

俳優であれば実際に飲み食いすればそれで済みますが、声優は喉を鳴らしたりして音を作る必要があります。

頭の向き

他にも、マイクの位置が固定なので、状況に合わせて顔を横に振ったりできません。

A「おーい!」

B「え、おれ?」

みたいな会話があっても、常にマイクに声が当たるように、顔の向きを維持する必要があります。

マイクとの距離

役の距離感を出すために、立ち位置の調整も必要です。

小声で話すときはマイクに近づく。

遠くから呼びかける時は、一歩後ろから声を張り上げる。

自分の立ち位置を調節して、声の響きを変えたりもします。

ペーパーノイズ

さらに、声優は台本を手に持ったまま演じます。

声優も、演技をするときに身体は動くのですが(頭は固定したまま)、激しく動くと台本の紙の音がマイクに入ってしまいます。これをペーパーノイズといいます。

台本をめくるときもこのペーパーノイズに注意しないといけません。

共演者のセリフにペーパーノイズが乗ってしまうと、その共演者に再度演じてもらわなくてはいけません。

だから、あなたが演じてるとき以外にも気を遣う必要があります。

セリフの速度

また、アニメ作品を演じる場合は、キャラクターの口の動きに合わせてセリフを言わなければいけません。

キャラクターの口が1秒間動いていたら、その間にあなたのセリフを言い終わらないといけない。

早すぎても遅すぎてもダメ。

こういった声優の技術は、俳優にとって未知のものです。

俳優は、心が感じたとおりに身体を動かすことが出来るし(演出で固定された場合は別ですが)、声の響きを変えるために立ち位置を変えることもない。

台本を手に持っていないので、ペーパーノイズを気にすることもありません。

セリフも自分のペースで話せます。

以上のことから、俳優の方が圧倒的に演じる自由度は高いです。

だから俳優が声優に初挑戦するときは

「演技以外に気にしなければいけないポイントが多すぎる!」

と感じると思います。

・・・とは言え、この程度ならまあ想定範囲内。

結局は違う職業ですからね。

厳しくなってくるのはここからです。

声優は演技の器用さが求められる

個人的に一番大きな俳優と声優の違いはこれです。

器用な演技問題。

僕は、このブログを通じて

器用なだけの演技はするな!

と言い続けています。

泣きマネや、怒ったふりで、いかにそれっぽく演じられても、しょせんは偽物です。

観客や視聴者の心に届くことはありませんし、その役者自身の演技力も一生伸びることはありません。

全てうそから始まっているからです。

僕は、俳優ほどうそのない職業は無いと思ってます。

ちゃんとした役者なら、本当に役者自身の心が動いて演じています。

「セリフがこう書いてあるから」とか、「演出がこうだから」に縛られません。

例えば、泣かなければいけないシーンがあるとします。

本来「泣く」のは、感情が高ぶった結果として、涙が流れるという現象が起きるはずです。

ですので、僕ら俳優は役作りの段階で、そのシーンで涙が自然に流れるまで感情を作りこんでおきます。

「ここで泣く」と、ト書きに書いてあるから器用に涙を流すわけじゃないんです。

そのための準備を一生懸命やってます。

役者の仕事は、

役の感情に共感して、現実には存在していない役の気持ちを代弁すること

そのために、役と長い時間向き合って距離を縮めていきます。

はっきり言って、俳優の演技は器用さと対極にあります。

コツコツ積み上げていくべき。

でも残念なことに、現実には器用にそれっぽく演技をする俳優もまだまだ目立ちます。

さて声優。

声優は、仕事柄どうしても器用さが求められる職業だと、実際にやってみて感じました。

感じたままに演技するには、現実世界に引っ張られる要素が多すぎるんです。

例えば、「台本を持ちながら演技をする」。

演じる時に、この状態を正当化しないといけません。

役自体は、画面の中で自由に生きているのに、役者の身体は狭いブースの中で台本を手に持っている。

いわゆる憑依型タイプの役者のように

「私は今、役のキャラクターなの!」

みたいなのが通用しません。

「役のキャラクターなのに、なんで台本を手に持ってるの?」

という疑問に答えられないからです。

また例えば、横で演じてる共演者から「お~い」と(セリフで)呼ばれたとき、普通なら振り向きます。

でも声優は、振り向いてしまうと顔がマイクに向かわなくなってしまうので、声だけで振り向いた表現をしなければいけません。

これも

「役としてそこに存在する」

ことを至上としている俳優の演技の世界から考えると、フラストレーションが溜まります。

「呼ばれてるのに、振り向いてはいけないってなに・・・?」

ってなります。

こう考えていくと、上で解説した声優独自の技術は「役としてそこに存在する」ことが仕様上できないからこそ生まれたものだとわかります。

つまり、役者の理性を保ちながら演技をするためのテクニックなわけです。

この点、俳優は役者としての理性を全部捨てて、ただ役として舞台上やカメラの前にいることが可能です。

「俳優だって、理性を全部捨てたら、演出もセリフも意識できないじゃないか」

と思うでしょうが、現実にはどんなに理性を捨てようと努力しても、いやでも数パーセントは残ります。

残念ながら天才でないかぎり、その境地にはいけません。

それこそ憑依型タイプの役者くらいですね。完全に理性を吹っ飛ばせるのは。

舞台で演じてるのに、理性が吹っ飛んでしまって、自分が今どこにいるか理解できない人とかもごくまれにいます。

憑依型は憑依型で辛い部分もたくさんあるんですけどね・・・

憑依型についてはこちらの記事に詳しくまとめました。ご興味があればどうぞ。

少し脱線しました。

ここまでをまとめると

「声優は声だけで演じる仕事なので、作品を成立させるためには器用でなければならない」

ということ。

そして、もう一つ声優が器用さを求められる理由があります。

それは

役作り期間が短いこと

です。

俳優に比べて、声優は圧倒的に現場の数が多いです。

有名声優だと、一カ月に数十作品に出演することもあるようです。

それだけ作品数があると、役作りどころではない。

俳優はセリフを覚える作業もあるし、一つの舞台に立つのだって、どんなに短くても1ヶ月はかかります。

その期間に、声優は複数の現場に立つことができるわけです。

これでは、役を作っている時間がない。

だから、声優はいつでも引き出せるようにたくさんの表現の仕方をストックしています。

ツンデレなキャラクター、クールなキャラクター、熱血漢、老人、子供・・・

泣き方も、すすり泣き、号泣などなどそのシーンにあった表現方法を瞬時に引き出せます。

こうして短い役作り期間でも、収録に間に合わせることができるわけです。

僕の俳優の後輩で、現在、声優をやっている男はこう言っていました。

A.Y「たしかに、声優は俳優に比べて深い役作りはしない。でも、脚本の読み取りはその分重点的にやる」

だそうです。

短い役作り期間を、読解力でカバーしているわけですね。

声優は1にも2にも「滑舌」

俳優が声優をやるときに苦労するのがここです。

正確には「滑舌」と「マイクの音の乗り」です。

声だけで演じるため、滑舌とマイクの乗りが悪いと、それだけで下手に聞こえます。

どんなに、役の感情を作り上げていても、この二つが出来てないと素人のように聞こえる。

そうです。ラジオドラマやった時の僕がそうです(笑)

ラジオドラマ決まってから、滑舌の練習は毎日欠かさずやったんですけどね。

やっぱり、本職には到底及ばなかったです。

ラジオドラマの監督を僕の相方(彼も本職は俳優)がやってくれたんですが、彼が言うには、

S.Y「出演者がもし全員俳優だったら、滑舌が悪くても、あまり下手には聞こえない。でも、声優と俳優が混じると、俳優の声だけが浮いてしまい下手に聞こえる」

とのことでした。

あなたもいくつかのアニメ作品を見て感じたことがあるんじゃないでしょうか。

有名俳優が、アニメの声の吹き替えをやって、一人だけ浮いてることとかありませんでしたか?

もちろん、なかには違和感のないレベルまで仕上げてくる俳優もいますけど、そういうのは稀。

基本的には、声優の練習をガッツリやっていないと浮いてしまいます。

これには理由があって、極論、俳優は滑舌が悪くても別にいいんです。

なぜなら、表情、身体、動きなど、観てる人に熱を伝えられる部位がたくさんあるからです。

もちろん、大体の監督や演出家は「滑舌直せ」と言ってくると思います。

作品の仕上がりに影響しますからね。

でも、演技力という観点だけでみたら別にどっちでもいい。

日本語かどうか判別できないほどだったとしても、その役の魂は伝えられます。

一つ滑舌が悪すぎることで問題があるとしたら、役の幅が狭くなることが考えられます。

「こいつ、感情は強いんだけど、どの作品観ても何言ってんのかわからないんだよな」

みたいな。

まあ、さすがにそこまで酷い滑舌の人はあまりいないですね。

ただ声優の場合、声しか武器がないので、滑舌が悪いと仕事になりません。

RPGで例えると、

魔法戦士(俳優)は、攻撃力が低くても(滑舌が悪くても)魔法が使えるけど(表情や動きでカバーできるけど)、

戦士(声優)は、攻撃力低かったら(滑舌が悪かったら)パーティに入れてもらえないですよね。

そんな感じ。

ですから、俳優が声優をやるときは、声優専門の練習が必須になります。

僕が実際にやってみて一番感じたのが、「滑舌」と「マイクの音の乗り」でした。

声優が俳優の仕事をできるともかぎりません

さて、次は逆。

声優が俳優の仕事をする場合。

声優と一緒の舞台に立ったことはないので、憶測の域はでないんですけど、俳優が声優の仕事を簡単にできないのと同じように、声優も俳優の仕事をできるとは僕には思えません。

理由は2つ。

・俳優の役作り方法をしらないから
・表現しようとしすぎてしまうから

俳優の役作り方法をしらないから

前述したように、声優には器用さが求められます。

それに対し、俳優はとことん役に向き合います。

役の内面に深くもぐっていき、役の本当の感情を見つけ、それに共感することで演じます。

そして、舞台上・カメラの前で実際に心が動いてセリフが口から出てきます。

実際、一か月程度の稽古期間では、なかなかこのレベルまで達するのは難しいです。

それくらい時間がかかります。

声優畑出身だとこの経験がない・・・はず。

この、実際に心が動いてというのは、器用な演技では達しません。

気持ちがなんとなく乗ることはあっても、役と同化してる感覚みたいなのは、泥臭く役と向き合い続けて、共感しないと生まれてこないからです。

この状態になると、アドリブで何十分でも話続けられます。

冷静になって考えてみると、役だって一人の人間です。

その人生に共感して代弁するのに1ヶ月で足りるわけないと思いませんか?

あなただって、「君のことなら1ヶ月もあれば演じられるよ」って言われたらむかつきますよね。

その程度で俺の何がわかるんだよって。

声優のようにすぐに演じられないからこそ、生まれるものが俳優の演技にはあります。

ここに、声優は苦労するのではないかと思います。

表現しようとしすぎてしまうから

声優は声だけで表現をする仕事なので、どうしても表現力を重要視しすぎているきらいがあります。

アニメはともかく、外画(外国映画、洋画のこと)でもそうです。

しかし、身体や表情も込みの演技だと、表現しようとし過ぎてるように映ります。

言ってしまえば、リアルじゃない。

これは、さっき言った器用さとも関係してきています。

俳優はリアリティを求めて、役と深く向き合っていきます。

声優はリアルに聞こえるように表現します。

根底にあるのは、テクニックに走ってしまうか、役の感情を自分ごととして捉えているかということです。

声優の人が悪いというわけではなくて、単純に芝居自体が違うといった感じです。

ただ、声優の方が映像や舞台の芝居をやるのであれば、一から学ばないとこの感覚は身につきません。

このように、声優も俳優も芝居の仕方、役作りの仕方、そして社会(視聴者)から求められるもの、いろいろなものが違います。

同じ演技をする仕事ですが、大きな隔たりがあります。

今まで培ってきたスキルにちょっと手を加える程度では、どちらもできるようになりません。

僕が実際にやって感じたのは、今まで培ってきたものを一旦捨てた方が早いということです。

一からもう一つ(俳優なら声優、声優なら俳優)の技術・やり方を学び、最後のスパイスとして今まで培ったものを付け加えた方が早いです。

変なたとえですが、声優の練習を一人でコツコツやってて思ったのは、

インテリアコーディネーターに、「ちょっと庭の手入れもしといてよ」って言っているような感じ。

「いやいや、私、部屋の中専門ですけど」

「いいじゃん。家を美しくする仕事でしょ?庭も家の一部じゃん」

みたいな。

これくらいかけ離れてるなと思いました。

まとめ

この記事では、俳優と声優は完全に別物という話をしました。

俳優が声優の仕事がすぐにできないのはこんな理由から。

・声優ならではのテクニックがある
・声優は演技の器用さが求められる
・声優は1にも2にも「滑舌」

声優が俳優の仕事をすぐにできないのはこんな理由から。

・俳優の役作り方法をしらないから
・表現しようとしすぎてしまうから

俳優と声優を器用にどちらもこなすのには、付け焼刃ではなく、しっかりとどちらも学ぶ必要があります。

当然、それだけ時間も労力もかかります。

とはいえ、僕の友人にも、後輩にも、俳優と声優をどちらもやっている人もいます。

彼らは上手く両方の能力をミックスして演じているわけではなく、

俳優として演じる時は、俳優で培った能力をメインに。

声優として演じる時は、声優の技術をメインに。

切り替えているようです。

僕は、俳優がより上手く俳優の演技をするために、声優の勉強をすることもアリだと思います。

俳優は声優の滑舌・マイクに乗る声の出し方を訓練することによって、より役の幅が広がり、キャラクター作りに活かせるからです。

滑舌も良いに越したことはないですしね。

ただ、この場合気を付けなければいけないのが、声優の勉強をすることによって器用さに走ってしまう可能性があることです。

あくまで俳優は不器用に泥臭く役作りするのが絶対です。

ここを骨身に染みてわかっていないと、簡単に楽な方に流れます。

楽な方に流れると、演技力はすぐ低下します。

声優も同じで、俳優の勉強をすることによって声優としての演技力アップにもつながると思います。

例えば、俳優の役と向き合う役作りを学ぶことによって、役の想いの強さをパワーアップさせることができます。

これを学ぶことで、声優にデメリットはありません。

ですが、俳優が声優の勉強をするより、声優が俳優の勉強をする方が難易度は高いと考えています。

なぜなら、声優の勉強は技術を学ぶことですが、俳優の勉強は、技術以上に精神性を学ぶことだからです。

ちなみに、サザエさんの波平を演じた永井一郎さんは、声優ながら「メソッド演技」を学び、自身の演技に活かしたそうですよ。

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