役へのアプローチ方法全部公開します。【キャラクター作りと意識の方向】

役へのアプローチ方法全部公開します。【キャラクター作りと意識の方向】

この記事は、

・役作りってどうすればいいの?

・役にどうやって近づけばいいかわからない。

・もっと深く役と繋がりたい!!(迫真)

こんな想いをお持ちの方に向けて書いていきます。

この記事を読むとこんなことがわかります。

超絶具体的な役へのアプローチ方法【キャラクター編】
⇒台本から役作りのヒントを読み取れないと、役にアプローチしようがありません。読解力!

②超絶具体的な役へのアプローチ方法【意識の方向編】

⇒実際に僕がどうやってるか全部公開

どうも俳優をやっていますヒロユキです。

今年で俳優歴13年目。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。

また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。

さて、この記事ではある一作品(ショートストーリー)を例として用意してあります。

もし、その作品を台本として僕がもらったら、どうやって役へアプローチしていくのか・・・一から全て紹介・解説していくぞ!!

という実戦的な内容です。

この記事は特に、外的キャラクター作り(動作やしゃべり方、役のクセなど)と、意識の方向(リアルな演技をするのに必要なもの)について解説します。

台本の読解と感情の作り方はこちらの記事はこちらで解説しています。

文字数が半端なく多くなったので、記事を分けることにしました(笑)

題材として用意しているのは、3分ほどで読めるショートストーリーです。

あなたも一度読んでいただいて、「あー、ヒロユキはこうやって役の内面作ってるんだな」「動きの特徴はこういう言葉から探ってるんだな」というところを参考にしていただければと思います。

もちろん、役の作り方は人によって違うし、学んできた演技論(演技術)によってもまるっきり異なります。

だから当たり前のことではありますが、僕の役作り方法が唯一の正解だなんてことは全くありません。

ただ現役俳優が一から役へのアプローチ方法を説明してるブログは、おそらく日本には他にないはず。

だからレアであることは間違いないですし、あなたの演技にも役に立つところがきっとあると思います。

少し専門的な話になりますが、僕の演技バックボーンは、スタニスラフスキー、メソッド、チェーホフと複数の演技論が混ざっています。

内面の役作り(感情部分)はメソッド演技の教えが強く、意識の方向はスタニスラフスキーシステム、外的役作り(キャラクター部分)はチェーホフテクニークが少しと、独自理論のミックスで出来上がっています。

僕の中では、筋トレみたいに足を鍛えたかったらスクワット、腕を鍛えたかったら腕立て伏せのように、自分に必要な能力を鍛えるにはどんな練習が必要かわかっています。

ご自身の演技にプラスになりそうな部分だけ抜き出していってください。

僕が持ってる知識は全て提供します。

それでは、さっそくスタート!

超絶具体的な役へのアプローチ方法 【題材】

今回、役作りを勉強する題材として、水城ゆう先生の作品「Thank You So Much」を使います。

水城先生、題材のご提供本当にありがとうございます。

3分ほどで読めるショートストーリーなので、まずは読んでみてください。

サラッとで構いません。

この後の役作りの流れを説明する際に、必要になります。

作品は男性目線ですが、本記事は役へのアプローチ方法を学ぶのが目的なので、女性の方にも共通して役立ちます。

ぜひ挑戦してみてください。

「Thank You So Much」 水城雄
 
 酒場でちょっかいをかけた女のことで女房から責めたてられていると、沖をセクシーな光景が通りすぎていくのが見えた。

 ありゃいったい、何杯出てる?生まれてこのかた、あんなにたくさんのヨットがいっせいに走ってる様なんざ、見たことねえ。

 ピカピカにみがかれたハル。
 誇り高くクンと反りかえったマスト。
 真新しいセール。

 100杯もの大型セーリングヨットが、ステイを風でびゅんびゅん鳴らせているのが、ここまで聞こえてくる。
 彼は作業の手を休め、うっとりとその光景をながめた。

「おまえさん、聞いてるのかい?」

 女房が耳もとでどなった。

「聞いてるさ。でけえ声出さなくても、ちゃんと聞こえてる」
「聞こえてるなら、返事したらどうなんだい?」
 
 いつからマリアとできてるんだ、と追求されていたのだった。
 
 ヨットの群は、真っ青な空の下を突きすすんでいく。大西洋をわたってくる風を帆に受け、船体を大きくかたむけながら、波の上をすべっていく。
 
 クルーたちが船べりにずらっとならんですわっているのが見えた。オイルスキンを着こみ、顔をまっ黒に日焼けさせている。
 
 あいつら、いってえ、いまなにを考えてやがんのかな。

「おまえさん、聞いてるのかい?」

 女房がまたもやいった。 
 ふたりは自分たちのちっぽけな漁船の上にいるのだった。
 手入れはいいが、古い漁船だ。エンジンを停めていると、波にあおられ、木の葉のようにクルクルもてあそばれる。

「ああ」
「返事をおしよ。マリアとはいつからできてるんだい?」
「だから、マリアなんかとはできてやしねえって。あの女にはちゃんと男がいやがんだよ」
「だれだい?」
「そんなこと、おれが知るもんかい」
 
 彼は吐きすてるようにいうと、魚網をつくろう作業にもどった。
 
 そうさ。そんなこと、おれが知るもんかい。マリアの男なんか、おれの知ったこっちゃねえ。くそ、はやいとここれを直しちまって……

「やっぱりいないんじゃないか。マリアの男は、おまえさんなんだろ?」
「馬鹿いっちゃいけねえ」
「いつからあの女とできてんだい? いいかげんに白状おし」
「白状もなにも、マリアとなんかできてやしねえってば。おれはただ、あの酒場が好きなだけなんだ」
「じゃあ、なんでみんな、あたいが酒場にはいってくと、クスクス笑いやがんだい?」
「そんなこと、おれの知ったことか」
「やっぱりなんかあるんだ」
「なんにもねえってば。いいかげんにしろよ、おめえ。仕事、しろ。魚がみんな、逃げちまわあな」
「魚なんかどうだっていいよ」
 
 ふいに悲しみにとらわれたような女房の口調に、彼は顔をそむけた。
 
 先頭を走っていたヨットが、きゅうに向きを変えた。
 巨大なブイがすぐそばに浮かんでいるのが見えた。
 クルーたちのどなり声が、海面を伝わって聞こえてくる。
 
 セールがバタバタいう音。
 キリキリキリ……
 ウインチが回っている。
 バシッとセールが風をはたいた。
 
 ヨットは向こうむきになり、さらに沖へと向かったようだ。大きくかしいでいる姿が、たまらなくセクシーだ。
 
 いっぺん、ああいう船に乗ってみてえもんだ。そりゃあ、おれのこの船だってまんざらじゃねえ。丁寧に手入れしてるさ、毎日。かわいい娘みてえなもんだ。しかし、あんなでっけえ船に、いっぺんでもいい、乗ってみてえもんだ。魚をとることなんかかんがえずにな。
 
 こうるせえ女房もなしで。

「なあ、おまえさん」
 
 網針を持つ彼の腕を、女房が押さえた。

「いいかげん、白状しておくれな。おこらないからさ」
「おこらねえ? おめえはいつだってそういうじゃねえか。そういっときながら、おれが正直にいうと、ひでえことしやがる。ほれ、ここ見てみな」
 
 彼は潮風にさらされて真っ白になった髪をかきあげてみせた。

「わかってるって。あれはあたいが悪かったよ。ついカッとしちまったんだよ」
「6針も縫ったんだぞ」
「だから、あたいが悪かったっていってるじゃないか。おこらないって約束するから、白状しておくれな。そうすりゃ、あたいの気がすむんだよ」
 
 なにが気がすむもんか、と彼は思った。おれはこんりんざい、女房に白状なんかしねえ。
 
 大きなブイを回ったヨットが、次々と方向転換して、沖へと向かっている。
 
 あいつら、いってえ、どこに行きやがる? もっと沖にもうひとつブイでもあるんだろうか。それとも、どこか遠くの国に行っちまうんだろうか。
 
 あいつら、なにをかんがえてやがんだろう。
 きっと、頭ん中、真っ白にして、勝負のことしかかんがえてねえんだろうな。
 それなのに、このおれときたら……

「ねえ、おまえさんってば。お願いだからあたいに……」
 
 彼はとうとう癇癪玉を破裂させた。

「うるせえ! できてねえったらできてねえんだ。いつまでもウダウダいってねえで、仕事しろ。いいかげんにしねえと、海にほっぽり出すぞ!」
「なんだって、おまえさん?」
 
 彼は女房の目が吊りあがるのを見た。
 やれやれ。
 
 壮大なヨットの群れは、どんどん沖へと遠ざかって行く。
 
 それを追ってか追わずか、やはり沖へと向かうカモメの群れが、彼の目にはいってきた。

出典:水色文庫-朗読のためのフリーテキスト様

具体的な役へのアプローチ方法 【外的キャラクター作り】

外的キャラクター(以降、たんにキャラクターと言います)とはなんでしょう。

動き、しゃべり方、表情、クセ、いわゆる目に見える部分のことです。

だから外的と言います。

キャラクターを作るときは、感情など内面のことは完全に無視します。

外側と内側をすり合わせながら作ると、労力が半端なくかかるわりに、活き活きとしたキャラクターになりません。

どうしても内面のリアリティに引っ張られてしまって、動きが小さくなってしまう。

キャラクター作りのコツは、とにかく大きく「さすがにこんな動きはしないだろ」くらいオーバーに作ること。

最初にめちゃくちゃ大きく作って、それからだんだんと動きを整えていって現実にありえるくらいの大きさにしていきます。

こうすることで役をリアルサイズに戻しても、活き活きさが残ります。

不思議なことに、小さいところから少しずつ大きくしていった場合、ある一定以上の活き活きさがどうしても生まれません。

脳のどっかが「さすがにこれ以上はおかしい」とブレーキをかけている感じです。

動き・しゃべり方

さて、僕がこの男のキャラクターを作るとしたら、まずジブリッシュ自由過ぎるセリフというエクササイズを使って、この役に乗れるところを探していきます。

この2つは、主にしゃべり方に特徴を付ける練習です。

ジブリッシュ・・・むちゃくちゃ言葉をしゃべることにより、セリフに頼らず乗れるしゃべり方を見つけられる

自由過ぎるセリフ・・・一つのセリフを抜き出して、語尾だけ下げる、語頭を伸ばす、真ん中の音だけ高音、後ろに引きながらしゃべるなど、普通ではありえない言い方をあえて何度もすることで、しゃべり方に特徴をつけられる

あと、動きは変な歩き方イマジナリボディ、役作り期間が長ければアニマルエクササイズという練習も考慮に入れられます。

いろいろな動き方をすることで、役に乗れる動き方が見つかっていきます。

変な歩き方・・・ジブリッシュの動きバージョン、名前の通り、様々な変わった歩き方をして、役に乗れる動き方を見つける。ジブリッシュと併せると効果的。

イマジナリボディ・・・右腕だけ異常に長い、足のくるぶしが巨大化しているなど、違う身体の形を想像し、歩いたりジャンプしたりしゃがんだりしてみる。動きに特徴が生まれる。

アニマルエクササイズ・・・ゴリラや猫、蛇など動物の動きを取り入れることで、独特の動きになる。一つの動物を作るのに1年近くと、時間がめちゃくちゃかかる。ゴッドファーザーのマーロンブランドはゴリラから作ったのは有名。

このうち、ジブリッシュ・自由過ぎるセリフ・変な歩き方に関しては、下の記事で詳しく解説しています。

どれもとても有効な練習です。

キャラクター作りにご興味があれば読んでみてください。

役に乗れているかどうかの判断ポイントは「あ、この役っぽい」と、あなたが感じるかどうかです。

結局のところ、演じている本人がしっくりきているかどうかが一番正確に判断できますし、演技の質にも直結します。

これは、動きやしゃべり方だけでなく感情も同じです。

役の解釈は大体複数思いつきますが、「この役の目的は絶対これだ!」とそのうち一つを自信満々に言えるくらいになれば、演技に説得力が生まれます。

もちろん独りよがりなのはいけません。

それは役を無視しているだけ。

脚本を何度も読み、役の感情の細かいひだまでじっくり考えて感じ取った上で、最終的にはあなたがしっくりくるところを選んでください。

時間がかかるところです。

動きの話に戻します。

この主人公の男は、作品を通して魚の網をつくろったり作業をしています。

この作業に手間取っていたらリアリティもなにもありません。

「え?毎日やってるんじゃないの?」

ってなってしまう。

手早く、手馴れたプロの技術であることは絶対必要です。

その技術は、できればどこかで体験させてもらうのが一番ですが、それが不可能だった場合、youtubeなどの動画を見て研究します。

作業の順番、手先の動き、目線、意識の方向、ここが正確で速くなれば、観客からも演技が上手く見えるし、あなた自身も役に乗ることができます。

この作品では立ち上がって歩くシーンがないので歩き方を作る必要がありませんが、役によっては歩き方を特徴づけることがあります。

とくにコメディ作品では重要。

足からリズムが生まれることが多いです。

次に特徴をつけられるとしたら、しゃべり方ですね。

「なんにもねえってば。いいかげんにしろよ、おめえ。仕事、しろ。魚がみんな、逃げちまわあな」

このセリフだけ見てもわかるように、すでにキャラクターが立ってる話し方です。

抑揚やリズムを工夫して、あなたが乗れるしゃべり方を見つけてみましょう。

このセリフだけ完璧に乗ってしゃべれるようになれば、他のセリフも自動的に乗ってしゃべれます。

一つのセリフで、その役独特の抑揚やリズムをつかむことができるからです。

コツとしては淡々と色々な言い方を繰り返すのではなくて、首の向きを変えたり、顔の表情を動かしたり、腕や手を使ったり、身体の動きを利用しながら様々な言い方を試してみると、しっくりくるポイントが見つかりやすいです。

上で紹介した「自由過ぎるセリフ」という練習が、ここを見つけるのにピッタリです。

クセ

もう一歩難しいことを言えば、際立った特徴をちょっとだけ付けくわえると、よりキャラクターがはっきりとします。

例えば、男がやっている作業。

ここにその役ならではのクセをつけます。

これを「色付け」と言います。

あまり色付けしすぎると動きがガチャガチャして見辛いものになってしまいますので、ほんの少しだけアクセントを付けるくらいが良いです。

たとえば僕が色付けするとしたら・・・

魚網のつくろい方をしっかり調べたわけではないので、実際に演じるときは変わるとは思いますが、

力を入れて引っ張ったあとに拳をぐるりと回転させる

特定の決まった動きをするたびに、船底(床)を叩いてリズムをとる

とかかな。

これらは、作業の順番や動作が完全に身体に落ちて、無意識に動きが身体に表れるようになってから意識的に作っていきます。

別にクセを作らなくても、役のアプローチ全体に大きな影響を与えるわけではありませんし、ない方が良かったということも全然ありえます。

でも、この色付けで、あなた自身が役に乗ることができたり、観客にインパクトを残せる効果はあります。

たとえば映画「ダークナイト」。観ましたか?

あの作品で伝説となったジョーカーは、舌で自分の唇をなめたり、目を上に向けたりして動きのクセをつけています。

それらの動きが観客にジョーカーという人物のインパクトを与えるとともに、またジョーカーを演じたヒースレジャー自身も、あの動きで役に乗っていたように見えました。

反面、動きがあなたの衝動と合わさっていないと、ただ演技の下手な奴に見えます。

「なんかやろうとしてるのはわかるけど、浮いてしまっている」

みたいな感じです。

悲惨ですよね。

色付けするのは一番最後。

そして、やるならあなたの衝動にピッタリ合うくらい身体に落としこみましょう。

超絶具体的な役へのアプローチ方法 【意識の方向】

次は意識の方向です。

意識の方向とは聞きなれない言葉だと思いますが、リアルな演技をするために必要なのは感情ではなく、この意識の方向になります。

感情やキャラクターが0(全く作ってない)でも、意識の方向さえ完璧であれば「こいつ演技上手いな」と思われます。

それくらい演技力の要素の中で大事なものです。

詳しくはこちらの記事にたっぷりと書きましたので、ご覧ください。

さて、この作品を成立させる場合でも、意識の方向はとても大切な要素です。

まずは簡単に意識の方向とはなんぞやの説明をしますね。

意識の方向とは、

「僕たちが普段日常生活で(ほぼ無意識で)意識を傾ける対象の方向とその割合を、舞台上でも同じレベルで行うこと」

を言います。

こんな説明だとなんのこっちゃとなると思うので、例を使って説明しますね。

あなたは、古本屋の店員です。
あなたはレジに座ってお客さんを待っていますが、ほとんどお客さんは来ません。
店長は、奥の事務所に引っ込んでいます。
あなたは、お客さんをただ待っているのも暇なので、携帯で今やっているゲームを進めることにしました。

さて、このときあなたはどこに意識を向けるでしょうか。

もしこのようなシーンを演じることになったら、まずは、店内にいるかもしれないお客さんの様子、そして店長が事務所から出てくる気配はないか確認すると思います。

この時、座ったまま首を回して確認しても、立ち上がって確認しても、店内を一度歩き回って確認しても、どれでも構いません。

あなたが、もしその状況になった時に行うように確認してください。

さて、どちらも問題なしと判断しました。

それではゲームを始めますか?

このままゲームを始める人もいると思います。

人によって警戒心はバラバラですし、クビになったら困る度なんかもバラバラですから。

でも、もし僕だったら、以下のことにも意識を向けます。

・店の外を歩いている人通りがどれくらいか

・お客さんが良く来る時間帯か

・店長が表に出てくる時間帯か

・今まで気づいていなかった隠しカメラがレジに向かって設置されていないか

・設置されているとしたら、死角はどこか

これら全てに意識しなければいけないということではありません。

あくまで僕は考えるだろうなということです。

あなたが、普段上記のような可能性に気がつかないタイプの人であれば、演じる時にも気がつかないのは当然です。

でも、もしあなたが実際にこの状況にいたら意識を向けるのに、芝居という特殊な状況だと、その可能性に気がつかないのであれば鍛え直す必要があります。

誤解がないように言いますが、なにに気がついて、なにに気がついていないかが問題なのではありません。

あなたが「普段向ける意識の方向と割合」と、「演じる時に向ける意識の方向と割合」がずれていることが問題なのです。

何で普段やれてるのに、舞台上だとやらないの?ってことです。

あなたは、ゲームを進めたい。

でも店長の動きも気になる。

お客さんが入ってくる可能性も気になる。

店長にばれたらクビになるかも。

いや、意外と優しいから注意くらいで済むか?

気づかない間に入ってきたお客さんにばれてクレームが入ったら、さすがに店長も怒るよな。

店の入り口には注意しておこう。

っていうか、そこまでの危険を冒してまで、このゲーム進めたいか?

家に帰って、落ち着いてからやればよくない?

うーん、でも今暇だしな。暇な時間を有効活用したい・・・

ってか、お金もらいながらゲームとか最高じゃん?

多分これくらいは、あなたがその状況にいたら考えるはず。

そしてその考えに従って、あなたの意識が、店の入り口や、事務所の入り口や、監視カメラ、ゲームの内容に、自動的に割り振られるはずです。

それがなぜか、芝居をしているとそこまで考えない。

「ト書きに書かれているから演じました」以上の答えが出てこない。

これでは、想像の世界に入れてないですよね?

ちなみに、このシーンは台本ではこんな感じで書かれているはずです。

   古本屋店内
   男、店内の様子を確認し、ポケットから携帯を取り出しゲームを始める。

状況説明なんてわずか一文です。

この一文で、上で挙げた意識を向ける可能性のある部分を思いつき、そこに自動的に最適な割合で意識を向けながらゲームを始めることができるのか。

・・・文字にすると大層難しいように感じますよね。

でも、想像の世界で実際に生きられるようになっていれば全く難しくありません。

あなたが普段通りに、意識を向けるところに向けるだけ。

「客があんまりこない古本屋のレジに座ってるんでしょ?そこでゲームしようとするんでしょ?」

慣れれば簡単。いつも通り特別なことをする必要はありません。

でも意識の方向を完璧にするには、やっぱり練習が必要です。

一番鍛えられる練習の名前は架空対象行動

練習方法はこちらをご覧ください。

さて、思っていたより長くなりましたが、これが意識の方向と言います。

一般的なワードではないので、他の演技関係者に話しても通じません(笑)

ただ、意識の方向が完璧にできたら、演技がリアルになるだろうなというのは感じていただけましたよね。

それではこの意識の方向が、この「Thank You So Much」という作品だったらどう働くのか考えていきましょう。

この作品は、船の上で男とその女房が会話している1シーンしかありません。

そして歩いたりせず、同じ場所にとどまって完結します。

男が立っているか座っているかは、俳優の解釈(と演出家の演出)次第です。

意識が向く対象をまず列挙してみましょうか。

・女房

・たくさんのヨット

・クルーたち

・魚網

・頭の中のマリア

・理想の自分

・(もしかすると)工具

・(もしかすると)風

こんなところでしょうか。

これらに、最適な割合で意識が向きます。

最適な割合は、当然俳優の感性によって異なります。

大きくはこの4種類。

・女房

・ヨットやクルーを通した理想の自分

・魚網

・頭の中のマリア

女房は会話相手なので言うまでもなく意識は向いていますが、問い詰められたくないと思っているのがポイント。

真正面で向き合って、目を見て会話しているとは思えません。

もし僕が演じるとしたら、このシーンの9割以上、女房の目を見ないで演じると思います。

魚網をつくろうのはいつもやっていることのはずなので、ほぼほぼ自動的。

どうしても注意を向けなければいけない修正箇所のところだけ、少し手元に目線を落とすかなといった程度。

基本的に目は、キラキラしたヨットやクルーを眺めながら、もし自分があそこにいたらと理想の自分を思い浮かべています。

そして女房の言葉に反応して、マリアのつれない態度やマリアの他にいる男のことなどに意識が向く。

女房の追及をどうやってかわすかにも意識が向く。

「あ、今風に合わせてヨットが方向を変えた」と、またヨットに意識が向く。

こんな感じでしょうか。

文章にすると、意識がパッパッと切り替わっているように思えますが、大半は複数の意識の方向が混ざっています。

女房の言葉をかわしつつ、理想の自分の姿を遠くのヨットに見ています。

これらの意識の割合を変えるだけで、演技はガラッと変わります。

女房に意識を強く持って行ったら、口喧嘩がもっとヒートアップするかもしれない。

ヨットに意識を強く持って行ったら、女房のことなんてどうでもいいと思っている印象が強まります。

魚網に意識を強く持って行ったら、破損が思ったよりひどいのかもと思わせます。

作品として、どこにどれだけ意識を向けるのが正解かは演出家との相談です。

しかし俳優は演出家から答えをもらう前に、自分自身がしっくりくる感覚を見つけるべきだと僕は思います。

まずは、相手役とこのシーンを何度も合わせてみて、意識の方向と割合がしっくりくるところを見つけましょう。

一つ間違いなく言えるのは、女房の目をほぼ見ないということです。

舞台でも映像でも、下手な役者は相手の目を見すぎです。

僕ら、友達同士で会話しているときも、実はあんまり相手の顔見てないですよ。

とくに、相手の追及をかわしたいときに、相手の目をまじまじと見ているなんて違和感しかありません。

意識の方向を常に気にしながら演じていると、そのうち色々な違和感に気がついていきます。

ここで、相手の目を見るはずがない。とか、棒立ちになっているのがなんかおかしい。とか。

こうして自分の演技の違和感に気がつけるようになっていくと、映画でもTVドラマでも、プロとしてやっている俳優たちの演技がウソだらけなのがわかります。

「いやいや、そこでそんな動きはしないだろ」

「心と身体つながってねえじゃん」

「その涙は解釈が違う」

など。

おかげで、普通に作品を楽しめなくなってきます(笑)

逆に演技の上手い俳優のすごさも、素人とは比べ物にならないくらいわかります。

「待って、今の視線ヤバくない?」

「本当に感じてなかったら、そんな動きは出てこない。この俳優はすごい!」

とかですね。

俳優仲間同士だとこういう会話で盛り上がります。

逆に、いわゆる映画好きとは全く話が嚙み合いません。

「この作品は、80年代のパロディで~~~」

「いや、そんなことどうでもいいから、あの俳優の演技のすばらしさについて語ろうよ!」

みたいな。

演技が上手い俳優となると、やっぱり感情が強い俳優を指すことが多いです。

でも手っ取り早く演技が上手くなりたければ、この意識の方向を伸ばすことが一番です。

感情の強さい演技は、観客の心に響くし印象にも残りますが、目に言えない分成長しているかどうかわかりにくく、成長自体もすごく時間がかかります。

さらに必死に役作りしても、本番で感情が全然沸き起こってこないことも普通にあります。

その上、役が変わるとまた一から作り直さなければいけません。

しかし意識の方向は、普段の稽古でレベルを上げておけば、役が変わっても意識を向けるべきところにちょうど良いレベルで意識を向けることができます。

だから初見の脚本でも、リアルっぽい演技にはなります。

本当のリアリティは、当然役作り必要ですけどね。

演技初心者がサクッと上手く見られるには、意識の方向から鍛えるのが良いです。

小手先のスキルではなく一生涯使えて、さらに他の要素より早く身につきます。

まとめ

以上、役へのアプローチ方法【キャラクターと意識の方向】編でした。

この作品は、意識の方向がキモだなと思います。

女房の目を見ずに理想の自分に想いを馳せたり、魚網に視線を落としたりすることで、二人の関係性や女房への想いが表現できます。

ここに特徴的なキャラクターを入れて、役のインパクトを作り出す。

感情を入れて、役の存在感、魂を作り出す。

といったイメージです。

注意点:

表現できるとは言いましたが、くれぐれもテクニックとして意識の方向を使わないでください。

「女房の目を見ない、ヨットの方に目線を向ける。これで、〇〇な感情を表現できるはずだ」

意識の方向はこういう類のものではありません。

意識の方向を完璧にする目的は、「日常と同じ意識の方向と割合を舞台上(カメラの前)に持ち込むことによって、想像の世界で生きられるようにすること」です。

つまり、現実と同じように想像の世界の事象を感じるための能力です。

だから女房の目を見ないというのは、そうすることで普段あなたが無意識に行っている意識の使い方が思いだされ、想像の世界にいやすくなるからです。

この時はこっちに意識を向けて、このタイミングではあっちに意識を向けてとやっていると、効果は真逆で、想像の世界に入れません。

ここから少し余談。

簡単にできるとは言いませんが、意識の方向と感情が噛み合うと、ほとんどの作品で無双できます。

日本の演技が上手い俳優で、キャラクター性が強い俳優はあまりいません。(菅田君とかは例外)

ほとんどは、意識の方向と感情が優れています。

売れる売れないは別ですが、第一線で活躍する俳優と同じように、この二つの能力を鍛えていけば、演技力は彼らと競えるところまでいけます。

役へのアプローチ方法感情編も書いたので、ご興味あればご覧ください。

演技力を構成する要素って他になにがあるの?という方は、こちらの記事を読んでみてください。

全部で7要素あり、役作りの段階で必要な想像力・本番力・読解力についても解説しています。

そして最後。台本をもらってから本番を迎えるまでの役作りの行程を全部まるっと知りたい方は、こちらの記事をどうぞ!

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