役へのアプローチ方法全部公開します。【台本の読解と感情の作り方】

役へのアプローチ方法全部公開します。【台本の読解と感情の作り方】

この記事は、

・役作りってどうすればいいの?

・役にどうやって近づけばいいかわからない。

・もっと深く役と繋がりたい!!(迫真)

こんな想いをお持ちの方に向けて書いていきます。

この記事を読むとこんなことがわかります。

超絶具体的な役へのアプローチ方法【台本読解編】
⇒台本から役作りのヒントを読み取れないと、役にアプローチしようがありません。読解力!

②超絶具体的な役へのアプローチ方法【感情編】

⇒実際に僕がどうやってるか全部公開

どうも俳優をやっていますヒロユキです。

今年で俳優歴13年目。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。

また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。

さて、この記事ではある一作品(ショートストーリー)を例として用意してあります。

もし、その作品を台本として僕がもらったら、どうやって役へアプローチしていくのか・・・一から全て紹介・解説していくぞ!!

という実戦的な内容です。

3分ほどで読めるショートストーリーなので、あなたも一度読んでいただいて、「あー、ヒロユキはこうやって役の内面作ってるんだな」「動きの特徴はこういう言葉から探ってるんだな」というところを参考にしていただければと思います。

もちろん、役の作り方は人によって違うし、学んできた演技論(演技術)によってもまるっきり異なります。

だから当たり前のことではありますが、僕の役作り方法が唯一の正解だなんてことは全くありません。

ただ現役俳優が一から役へのアプローチ方法を説明してるブログは、おそらく日本には他にないはず。

だからレアであることは間違いないですし、あなたの演技にも役に立つところがきっとあると思います。

少し専門的な話になりますが、僕の演技バックボーンは、スタニスラフスキー、メソッド、チェーホフと複数の演技論が混ざっています。

なかでも、内面の役作り(感情部分)はメソッド演技の教えが強いです。

これは僕が役作りに想像だけでなく自分自身の経験を絡ませて、よりパワフルな感情が出せるよう役を作っているということです。

これがメソッド演技の特徴です。

演技論によっては「想像力だけで役を作りきるべし」というところもある(ステラアドラーとかね)ので、あなたの演技にプラスになりそうな部分だけ抜き出していってもらえればと思います。

ちなみに、記事が長くなりすぎたのでキャラクター作りとリアルな演技をするための意識の方向については、別記事で紹介しています。

それでは、さっそくスタート!

超絶具体的な役へのアプローチ方法 【題材】

今回、役作りを勉強する題材として、水城ゆう先生の作品「Thank You So Much」を使います。

水城先生、題材のご提供本当にありがとうございます。

3分ほどで読めるショートストーリーなので、まずは読んでみてください。

サラッとで構いません。

この後の役作りの流れを説明する際に、必要になります。

作品は男性目線ですが、本記事は役へのアプローチ方法を学ぶのが目的なので、女性の方にも共通して役立ちます。

ぜひ挑戦してみてください。

「Thank You So Much」 水城雄
 
 酒場でちょっかいをかけた女のことで女房から責めたてられていると、沖をセクシーな光景が通りすぎていくのが見えた。

 ありゃいったい、何杯出てる?生まれてこのかた、あんなにたくさんのヨットがいっせいに走ってる様なんざ、見たことねえ。

 ピカピカにみがかれたハル。
 誇り高くクンと反りかえったマスト。
 真新しいセール。

 100杯もの大型セーリングヨットが、ステイを風でびゅんびゅん鳴らせているのが、ここまで聞こえてくる。
 彼は作業の手を休め、うっとりとその光景をながめた。

「おまえさん、聞いてるのかい?」

 女房が耳もとでどなった。

「聞いてるさ。でけえ声出さなくても、ちゃんと聞こえてる」
「聞こえてるなら、返事したらどうなんだい?」
 
 いつからマリアとできてるんだ、と追求されていたのだった。
 
 ヨットの群は、真っ青な空の下を突きすすんでいく。大西洋をわたってくる風を帆に受け、船体を大きくかたむけながら、波の上をすべっていく。
 
 クルーたちが船べりにずらっとならんですわっているのが見えた。オイルスキンを着こみ、顔をまっ黒に日焼けさせている。
 
 あいつら、いってえ、いまなにを考えてやがんのかな。

「おまえさん、聞いてるのかい?」

 女房がまたもやいった。 
 ふたりは自分たちのちっぽけな漁船の上にいるのだった。
 手入れはいいが、古い漁船だ。エンジンを停めていると、波にあおられ、木の葉のようにクルクルもてあそばれる。

「ああ」
「返事をおしよ。マリアとはいつからできてるんだい?」
「だから、マリアなんかとはできてやしねえって。あの女にはちゃんと男がいやがんだよ」
「だれだい?」
「そんなこと、おれが知るもんかい」
 
 彼は吐きすてるようにいうと、魚網をつくろう作業にもどった。
 
 そうさ。そんなこと、おれが知るもんかい。マリアの男なんか、おれの知ったこっちゃねえ。くそ、はやいとここれを直しちまって……

「やっぱりいないんじゃないか。マリアの男は、おまえさんなんだろ?」
「馬鹿いっちゃいけねえ」
「いつからあの女とできてんだい? いいかげんに白状おし」
「白状もなにも、マリアとなんかできてやしねえってば。おれはただ、あの酒場が好きなだけなんだ」
「じゃあ、なんでみんな、あたいが酒場にはいってくと、クスクス笑いやがんだい?」
「そんなこと、おれの知ったことか」
「やっぱりなんかあるんだ」
「なんにもねえってば。いいかげんにしろよ、おめえ。仕事、しろ。魚がみんな、逃げちまわあな」
「魚なんかどうだっていいよ」
 
 ふいに悲しみにとらわれたような女房の口調に、彼は顔をそむけた。
 
 先頭を走っていたヨットが、きゅうに向きを変えた。
 巨大なブイがすぐそばに浮かんでいるのが見えた。
 クルーたちのどなり声が、海面を伝わって聞こえてくる。
 
 セールがバタバタいう音。
 キリキリキリ……
 ウインチが回っている。
 バシッとセールが風をはたいた。
 
 ヨットは向こうむきになり、さらに沖へと向かったようだ。大きくかしいでいる姿が、たまらなくセクシーだ。
 
 いっぺん、ああいう船に乗ってみてえもんだ。そりゃあ、おれのこの船だってまんざらじゃねえ。丁寧に手入れしてるさ、毎日。かわいい娘みてえなもんだ。しかし、あんなでっけえ船に、いっぺんでもいい、乗ってみてえもんだ。魚をとることなんかかんがえずにな。
 
 こうるせえ女房もなしで。

「なあ、おまえさん」
 
 網針を持つ彼の腕を、女房が押さえた。

「いいかげん、白状しておくれな。おこらないからさ」
「おこらねえ? おめえはいつだってそういうじゃねえか。そういっときながら、おれが正直にいうと、ひでえことしやがる。ほれ、ここ見てみな」
 
 彼は潮風にさらされて真っ白になった髪をかきあげてみせた。

「わかってるって。あれはあたいが悪かったよ。ついカッとしちまったんだよ」
「6針も縫ったんだぞ」
「だから、あたいが悪かったっていってるじゃないか。おこらないって約束するから、白状しておくれな。そうすりゃ、あたいの気がすむんだよ」
 
 なにが気がすむもんか、と彼は思った。おれはこんりんざい、女房に白状なんかしねえ。
 
 大きなブイを回ったヨットが、次々と方向転換して、沖へと向かっている。
 
 あいつら、いってえ、どこに行きやがる? もっと沖にもうひとつブイでもあるんだろうか。それとも、どこか遠くの国に行っちまうんだろうか。
 
 あいつら、なにをかんがえてやがんだろう。
 きっと、頭ん中、真っ白にして、勝負のことしかかんがえてねえんだろうな。
 それなのに、このおれときたら……

「ねえ、おまえさんってば。お願いだからあたいに……」
 
 彼はとうとう癇癪玉を破裂させた。

「うるせえ! できてねえったらできてねえんだ。いつまでもウダウダいってねえで、仕事しろ。いいかげんにしねえと、海にほっぽり出すぞ!」
「なんだって、おまえさん?」
 
 彼は女房の目が吊りあがるのを見た。
 やれやれ。
 
 壮大なヨットの群れは、どんどん沖へと遠ざかって行く。
 
 それを追ってか追わずか、やはり沖へと向かうカモメの群れが、彼の目にはいってきた。

出典:水色文庫-朗読のためのフリーテキスト様

超絶具体的な役へのアプローチ方法 【台本読解編】

役のアプローチと言えば、やはり役の内面・・・心の部分をどうやって役に近づいていけばいいのか考えるのではないでしょうか。

ここが俳優の醍醐味でもあるし、準備に時間がかかり、精神的にも厳しい部分でもあります。

ただ一口に感情・気持ちと言っても用意する箇所はたくさんあります。

まずは役が作品の中でなにを望み、なにに苦しんでいるのか。

この部分を作らなければいけません。

これが役の存在意義になります。

そして人間関係。

例えばこの作品だったら、女房に対してどう思ってるの?マリアに対してはどう思ってるの?でかい船に乗ってる船乗りたちのことはどう思ってるの?

こういう気持ちも用意します。

大きいところから小さいところまで、いろいろな気持ちを用意しますが、その中でも基本となるのが、「目的・障害・葛藤」の3つです。

この3つさえ強く持っていれば、とりあえず作品は成立します。

まずは、この3つの中心となる「目的」から見ていきましょう。

目的

最初に俳優が考えるべきことは、役の目的は何なのかです。

ほぼすべての登場人物には目的があります。

仮に目的がないと、そのキャラクターを作品に登場させる意味がなくなってしまうからです。

さて、じゃあ目的とはなにか。

目的は言い換えると、欲望のことです。

英語ではSuper Objective、僕が学んでいたところでは超課題と言っていました。

どれも同じ意味です。

その人物は「何が欲しいのか?」「何がしたいのか?」

これをまず見極めます。

たとえば役の目的には、「好きな子を口説き落としたい」もあれば、「今日もいつも通りの一日を過ごしたい」もあります。

台本から、役が存在する意味を見つけてください。

この物語では、終盤のこの描写。

いっぺん、ああいう船に乗ってみてえもんだ。そりゃあ、おれのこの船だってまんざらじゃねえ。丁寧に手入れしてるさ、毎日。かわいい娘みてえなもんだ。しかし、あんなでっけえ船に、いっぺんでもいい、乗ってみてえもんだ。魚をとることなんかかんがえずにな。

ここに「でかい船に乗りたい」と書かれています。

ただし、しっかり書かれているからと言って、これが男の目的とはかぎりません。

登場人物自体が、本当の目的に気がついていないこともあるし、恥ずかしいからとか恐れ多いからとかで文中では嘘をついていることも考えられます。

ただ、役の内面を探る大きなヒントにはなります。

この作品を何度か読んでみて、僕が思うこの主人公の目的は、

閉塞感から抜け出したい

だと感じました。

でかい船に乗りたいというのは、具体的な目的ではあるけれども、それが男の唯一絶対的なものとは感じませんでした。

閉塞感から抜け出すための、そして鬱屈した気持ちをパッと晴らすための一つの手段が、でかい船に乗ることなんです。

冒頭でマリアにちょっかいをかけたとありますが、ここからも、平坦な現実ではつまらない、現状に何か変化を起こしたいという男の想いが見え隠れします。

目的、特に主人公の目的は作品全体に大きく影響を及ぼします。

ほとんど同じ意味でも、「閉塞感から抜け出したい」と「代り映えしない毎日に新鮮さが欲しい」では、だいぶ役の性格も変わってくるはずです。

でも、どちらを目的に設定しても筋は通ります。

あとは演じる俳優の感性次第。

しかし、「でかい船に乗りたい」を目的と設定してしまうと、作品自体の方向性が大きく変わってきてしまいます。

なぜならそうなると、マリアにちょっかいを出したのはただの女好きというキャラ付けに過ぎなくなってしまうからです。

つまりこの主人公の男は、でかい船に乗りたい女好きという人物像になります。

作者がどういう意図で作ったかはわからないので、もしかするとそれが答えなのかもしれません。

しかし作品を通して「浮気したでしょ」「してねえよ」という問答が続いているところから見ても、ただの女好きというキャラクターメイクのためにマリアを用意したのではなくて、浮気心もつまらない現実から抜け出すための行動の一つだったと考えた方が、物語の方向性と、役の目的の向きが一致すると思いませんか?

仮に、主人公自身は閉塞感から抜け出したくて、マリアにちょっかいを出したと気がついていなかったとしてもです。

前述の通り、本当の目的を本人が気づいていないこともよくあります。

さて。俳優は最初に役の目的を探すわけですが、後になって「目的が違ってた」と気がつくことはよくあります。

問題ありません。

その場合は、あとから目的を変えることも可能です。

本番に間に合いさえすればいいので、「あ、やっぱこの目的だとおかしいな」と気づいたら作り直しましょう。

途中で本当の目的に気がつくと「一から作り直しかよ」と愕然としますが、実際にはそれまでに作ってきた部分で使えるところも多いです。

なんにせよ、目的は役にアプローチするための土台

ここが間違っていると、役の人物像全体がずれてきます。

障害

目的の次は障害です。

役に達成したい目的があるとして、障害がなければ、そのまま目的を達成して終わりです。

閉塞感から抜け出したい!!

やった!抜け出せた!!

これじゃ物語は面白くならないですよね。

目的を叶えたいけど、高い壁(障害)が邪魔して、一筋縄では叶えられそうもない。

どうしよう。ぐぬぬぬ・・・・・・

すべての物語はこのように構成されています。

なので、次は目的達成を邪魔している障害を見つけます。

この例文の目的「閉塞感から抜け出したい」を邪魔している障害で一番わかりやすいのは、この男性の女房ですよね。

「浮気したでしょ」と男を問い詰め、現実に縛り付けています。

ただ、作品内に書かれていた「でかい船に乗りたい」という想いが本来の男の目的にピッタリ重なっていなかったように、男の妻だけが障害でもないように思えます。

でかい船に乗りたいなと言いつつも、魚網をつくろったり、魚が逃げてしまうと心配したりと、彼の心自体が現実に縛られています。

つまり本当の障害は「魚網を直さなきゃ、魚を取らなきゃ、他人に気を持ったことを妻にばれないようにしなきゃ」と現実のいくつもの小さな障害に目を向け、目的達成のために動けない男自身の心ではないでしょうか。

もしかすると、でかい船に乗りたい、閉塞感から抜け出したいと思いつつも、半ば「俺には無理だろうけどな」とあきらめているのかもしれません。

キラキラしたヨットに乗っている人たちを見て、いいなぁと思っている。

でも目的達成のために主体的には動けない。せいぜい浮気の真似事をするくらい。

だんだん障害と人物像が見えてきました。

しかし、ここで思考を止めてしまうと「男自身の心が障害なんだ」とぼんやりしたもので終わってしまいます。

これでは、役へアプローチするための素材が足りません。

もう一歩深く足を踏み入れる必要があります。

「なぜ、目的を達成するために男は動かないのか」

考えられる一つ目は、そもそも目的が違っている可能性。

実はそこまで閉塞感から抜け出したいと思っているわけではないのかもしれません。

いつかはでかい船に乗りたい。

キラキラしたヨットに乗って、毎日の魚のことなんて考えずに過ごしたい。

という憧れがあるだけで、他の女にちょっかいを出して女房に怒られる現実が、物足りなく感じつつも安心できる日常なのかも。

考えられる二つ目は、目的達成することに強い恐怖を覚えている可能性。

もしチャレンジして失敗したら?日々の食料は?女房はどうやって食わせていく?

だいたい、どうやってあのでかい船に乗ることができるんだ。方法がわからない。

金もツテもない。

だから、乗りたいけど現実には無理だ。

こんな感じですかね。

あとは、この2つの障害が重なっていることも考えられます。

女房と口喧嘩するような現状を捨ててまで、チャレンジする理由があるか?

生きていけなくなっちまうかもしれないし、女房に愛想をつかされるかもしれないぞ。

そうしたら食料も女房もなくなってしまう。

普段はほっぽりだしたいと思っていても、それでも一緒に生きてきた女房だからな。

簡単には捨てられない。

無くしたくはない。

大切なものが失われる恐怖。

だったら夢をあきらめる方が全然いい。

うん。

この役の障害には、

今持っているものを失うかもしれない恐怖

が一番しっくりきます。

まあ、どの障害の解釈が正しいのかは、正直わからないです。

ここに書いた以上に他の障害を思いつくかもしれないし、その中に正解があるのかもしれません。

今のところ僕の中では、今持っているものを失うかもしれない恐怖が一番ピンと来ています。

ここは、演じる俳優次第で違う解釈ができます。

実際に舞台や映画でこの作品を演じるのであれば、監督や演出家の演出が入りますので、そこで障害が定まります。

もし特に演出の指定がないようであれば、あなたの一番しっくりくる障害の設定で構いません。

僕の場合は、頭の中で考えるだけでなく実際になんとなくで何度か演じてみて、動きと心のリンクが上手くいく障害を選びます。

とりあえず今回は、今持っているものを失うかもしれない恐怖で作っていきます。

葛藤

最後に葛藤です。

これは、目的と障害が設定されることにより生まれます。

閉塞感から抜け出したいという目的。

今持っているものを失うかもしれない恐怖という障害。

この2つが男の心の中で激しく対立し、「抜け出したい、でも現実も失いたくない」と葛藤します。

この作品では強い葛藤のカットはありませんが、近い部分で言うとここ。

「魚なんかどうだっていいよ」
 
 ふいに悲しみにとらわれたような女房の口調に、彼は顔をそむけた。

アホみたいな妄想をしている男が、ひやっと冷水をかけられた瞬間です。

理想と現実(目的と障害)が、ここで一瞬クロスします。

ここを除くと常にゆるやかな葛藤が男の心にあります。

それこそ(船乗りだけに)波のように、「あーでかい船に乗りたい。現実から離れたい」と願うこともあれば、「怖い、方法もわからない、女房を置いていくこともできない」としり込みすることもあります。

この作品では今まで通りの日常を男は選びますが、大体の物語では、葛藤に打ち勝ち目的を達成する流れになります。

例えば、ドラクエだったらこんな感じですよね。

「世界を平和にしたい」・・・目的

「でも、強敵の竜王がいる」・・・障害

「倒さなきゃ、でも俺なんかじゃ勝てない」・・・葛藤

結果、長い旅路の過程でレベルアップをし、葛藤に打ち勝ち目的を達成し、ゲームクリアとなります。

バトル漫画なんかも全く同じ。

目的と障害があって、その間で葛藤して、最終的には葛藤に打ち勝ち目的を達成します。

視聴者や観客が一番見たいのもこの葛藤に打ち勝つ部分です。

感動するシーンはたいていここ。

詳しくは「イヴァナ・チャバックの演技術」という本がオススメです。

この目的・障害・葛藤について詳しく書かれています。

・・・いったん休憩・・・

だいぶ長くなってきましたね。

本当は、外的キャラクター作り(動作やしゃべり方)や演技のリアリティを生み出す意識の方向についても解説しようと思ったのですが、そうするとこの記事だけでゆうに2万字を超えるので、この記事では役の内面に特化して解説します。

役のアプローチは、この役の内面(感情)作りが一番時間がかかります。

だいたい役作り全体の7~8割は内面です。

ここまでは台本の読解方法について説明してきました。

この後、読解してきた内容をもとに役に近づいていきます。

ちなみに、この感情やらキャラクターやら意識の方向というのは、僕が考える演技力を構成する要素の単位です。

要素は全部で7つ。

これら全てを底上げすることで、演技力が総合的に上がります。

演技力って一口に言っても、結局何を指しているのかぼんやりしてるじゃないですか。

人によっては、表情とか滑舌とか運動神経とかも入れたり。(勘弁してくれ)

なので、なにが演技力なのかを判断がつきやすくしました。

詳しくはあとで下の記事をご覧ください。

この7つの要素を軸に考えることで、あなたは今どの要素が得意で、どの要素をさらに伸ばしたら演技力が向上するのかがわかります。

人間関係

さて、役のアプローチに話を戻します。

続いては人間関係です。

目的・障害・葛藤を見つけることで、役の内面の大事な部分は見つかりました。

でも、これだけではリアルさに欠けます。

なぜなら、物語が役単体で完結してしまっているからです。

人間は、繋がりの中で生きています。

Aという相手には、優しくしたい。

Bには、気を遣わないと後が怖い。

Cは、無視してもOK。

なんて、人によって対応を変えてたりします。

これが良い悪いではなく、そういう繋がりのなかで人間は形成されます。

この作品で、絶対に作らなければいけない想いは、言うまでもなく男の女房に対してですよね。

この女房のことをどう思っているのか、目的を妨げるただの邪魔者なのか、人生を一緒に生きてくれるパートナーなのか、実は作品の根底には女房への愛が溢れるほどあるのか。

ここをどう解釈するかによって、女房への対応が変わり、あなたの演技も大きく変わります。

ヒントとなるのは、先ほどの障害・葛藤で見つけた「今あるもの(現実)を失うかもしれない恐怖」です。

この女房は男にとって、いわば現実を具現化した存在。

本当にどうでもよいと思っていたら、目的をさえぎる障害にはなりません。

速攻ほっぽり出して、でかい船に乗ってどっかに行きます。

でも実際はそういうわけにもいかない。

閉塞感から抜け出したいという想いにとっては邪魔だけど、今いる現実には大事な人物という解釈が妥当でしょうか。

解釈はかなり自由です。

当然相手役(女房)への想いがリアルであればリアルであるほど、あなたの演技に繊細さが生まれます。

「この女房は男にとっての現実を表しているんだなぁ」とぼんやり考えていては想いの力強さが生まれません。

それはただ、作品において女房の立ち位置を認識しているだけ。

女房への想いが力強くならないと、男にとっての障害が弱いです。

女房への想いがあるから、現実から抜け出すことができないので。

そして障害が弱いと当然葛藤も弱い。

なので、女房への想いをどれだけパワフルにリアルに作るかが、あなたの演技を天と地ほどにも変えます。

大げさではなく本当に。

だから、女房をしっかり作ることは大切ですが、僕は読解の段階では、相手役に対してどう感じているかはざっくりとしか作りません。

女房・・・目的達成には邪魔な面もあるけど、でも大切は大切なんだろうなぁ

くらい。

リアルにしていく流れは、読解後の役のアプローチにて行います。

ちなみに読解は本番直前までずっと続けます。

だから読解後というのは、ちょっと語弊がありますね。

正確には一旦読解をした後、役作りをしながらも読解を続けて、より深い解釈の種を探していきます。

後、余裕があれば、男がちょっかいを出したマリアへの想いも作ると良いでしょう。

妻への態度がより具体的になります。

仕事

次は、男の魚釣りの仕事についてです。

ここもちゃんと作ります。

男の現実の生活(つまり毎日の仕事)をリアルに、あなた自身の心に響くように細かく描写することで、そこで生まれる閉塞感もリアルで巨大になります。

またリアルな閉塞感を感じるからこそ、そこから抜け出したいという目的の強さも大きくなります。

さらに、実際に閉塞感から抜け出してしまった場合のデメリットも明確になります。

でかい船に乗れるようになったとして、その後また今の仕事に戻ってくることはできるのか。

それとも船に乗るためには、今ある用具は全て捨てるか売るしかないのか。

だとすると、この変わり映えしない生活に戻ってくることはもうできないのか。

それを代償にしてでも、閉塞感から抜け出したいのか。

リアルにすればするほど、あなたが「俳優をこの先やっていけるのか」と悩むのと同じように、役の人生について真剣に考えられます。

もし僕がこの仕事部分を作るとしたら、本やyoutubeやブログなどを見て、仕事の具体的な作業を明確にします。

そしてできれば、一度体験できるところにいって体験します。

これは、役の内面(感情)を作るためというよりも、こなれた動きや作業のクセ、そして作業をするときにどこに意識を持って行くのかを把握するために行います。

船乗りの役なのに、魚網のつくろい方がおぼつかなかったら、視聴者もあなた自身も物語の世界に入っていけないでしょう。

逆に、作業がほぼ無意識で行えるくらい手馴れると、それを起点に物語の世界に入っていくことができます。

「これはいつもやっていることなんだ」と脳が認識するんですね。

役の気持ちを「あーでもない、こーでもない」とうんうん唸らず、身体に作業を馴染ませるだけで良いので、僕は結構好きなアプローチ部分です。

最後は金。

仕事と同じく金もめちゃくちゃ大事。

今の仕事をやめて、金の問題はクリアできるのか。

この先、生きていけるのか。

どの作品でも「お金」というファクターは、めちゃくちゃ強い力を持ちます。

ほとんどの役の目的や障害にからんできますしね。

現実でもそうですよね。

どんなに大きな夢を掲げても、お金がないという障害ひとつで目的が達成できないことなんてごまんとあります。

ただ、大体の俳優はお金がないので(笑)、役作りとしては実感をこめやすいというメリットはあります(メリットか?(笑))

僕がこの役を作るとしたら、やはり経済的な部分はしっかり作ります。

順番としては、目的・障害・葛藤・人間関係・仕事の後くらいです。

ただ、経済的な困窮具合をめちゃくちゃリアルに作ることで、役が安定します。

本当に、金に余裕がない。

だから、閉塞感から抜け出したいけど、そんなことができるわけがないというのもわかっている。

そのイライラから余計に女房に冷たく当たってしまう。

など、金を起点に他の要素にも影響を与えます。

僕が作るとしたら、一番貧乏だったときとか、借金していた時のことを思いだして役の困窮具合をリアルに感じていきます。

あなたがもし今そこまで貧乏ではないとしても、この先俳優を続けていくのなら、めちゃくちゃ貧乏な生活を一度してみた方が今後の役作りの助けになりますよ。

大体の作品で金の問題はからんでくるので、いつでもその心境を呼び起こせる経験は便利です!!

超絶具体的な役へのアプローチ方法 【感情編】

だいぶ長くなりましたね。

ついてこれてますか?

ここまでは台本の読解について話をしてきました。

ここからは、それを基にどうやって役に近づいていくかについて説明します。

冒頭お話ししたように、僕の内面の役作りはメソッド演技という演技論(術)がコアとなっています。

なので、自分自身の過去の体験を用いて役の想いや苦悩に共感し、そして役の人生を追体験するといった流れで進みます。

役の気持ちをただ想像するよりも、自分自身が経験したことを通して役の気持ちに共感するので、感情がパワフルに出てきやすいです。

ただ、その分あなたの精神へのダメージは深刻。

たとえば役の苦悩に共感する場合、あなたのトラウマを引っ張り出して再体験します。

実際に、メソッド演技の役作りが原因で自殺した俳優や、精神的に病んでしまった俳優もいるほど。

ハリウッドでは、俳優個人個人にカウンセラーがついているのもうなづけます。

実際僕も、役と自分の境界がわからなくなって危なくなったことがあります。

メソッド演技の詳しい危険性については、こちらの記事をご覧ください。

さて、ここまでの読解で得たヒントを基に、自分自身の体験を使ってどうやって役に近づいていくか説明していきます。

目的・障害・葛藤

まず、閉塞感から抜け出したいという男の目的から考えていきます。

彼と同じ悩みを感じたことがないか、あなた自身の過去から探してみます。

こんなときに閉塞感から抜け出したいと感じたかも

俳優をやると決めた時?
受験勉強の時?
学校以外の習い事を始めた時?
初めて家出をした時?

一番、役の想いに共感できそうな記憶を選び、その時のことをただ想像してみてください。

想像だけでは、うまく思い出せないときは「ベラベラ独り言を言う」か、「ノートに書きだす」ことがオススメです。

僕はどちらもやっています。

特にノートは、一つの役を作るのに一冊丸ごと使うくらい書きまくります。(書き方は上のリンクからどうぞ)

ちなみに僕だったら、俳優やる前にやってたサラリーマン時代ですかね。

早く会社辞めて、音楽かダンスか演技をやりたかった(すべて未経験)。

英語が通じない国に旅したときに、コミュニケーションを取れる手段が欲しかったんです。

サラリーマン時代は、もうこのまま車に跳ねられても良いなとか思ってました。

死にたいわけではなかったんですけど、なんかもうどうでもいいような。

ここら辺の思い出から、閉塞感から抜け出したいと感じていた部分にフォーカスを当てて、現実に呼び出してきます。

つまり、車に跳ねられても別にいいかなという心境を再体験するということです。

こうして、役の想いと自分の過去の想いをすり合わせていくと・・・

たいていは上手くいきません。

「上手くいかないのかよっ!」っていう(笑)

近づいてる感じはするんだけど、ドンピシャとまではいかないような・・・そんな感じ。

「うーーん、なんかしっくりこないんだよなぁ」

となります。

でもこれは普通のこと。

だって、あなたと役は違う人間ですからね。

一発でいきなり、わかりました!共感できました!とはならない。

さて、それではこの後どうするか。

ここからは感覚で判断になりますが、

「どこかをちょっといじればはまりそう」であれば、その想い出を違った視点から見てみてください。

閉塞感から抜け出したいという気持ちに近いのが、あなたが演技をやると決めた時だとしたら、もしかすると少しずらして「俳優になりたい」と親に告白した瞬間がドンピシャではまるかもしれません。

または、芸能事務所に送る履歴書を書いているときの心境かもしれません。

周辺を探してみましょう。

「うーん、ちょっと離れてるかな」と感じたら、別の過去で再度トライしてみてください。

役の気持ちが、あなたの思い出で一発で共感できることは稀です。

普通は何度もリトライを繰り返し、ピッタリはまる過去を探していきます。(そしてそのたびに精神が削られていきます)

ですので、役作りの全行程で一番ここに時間がかかります。

基本的には、上記のように役の出来事に近いところから探していきますが、まるっきり違う体験で感じた想いがはまることもあります。

たとえば、失恋して辛さに耐えている役をあなたが演じる場合。

普通は、もちろんあなたが失恋した経験からその役にはまりそうな過去を探してきます。

でも、小学校のとき仲間外れにされた記憶だったり、中学の時友達とケンカしたときの記憶から、ピッタリ感を得られることもあります。

これはもう、正直試してみるしかありません。

まずは、ノートに書いたり想像したりして、役の気持ちとあなたが過去に感じた気持ちをすり合わせてみる。

そして上手くつながりそう(役の気持ちがわかりそう)だったら、エチュード(即興芝居)で相手役の人とそのシーンを合わせてみます。

セリフは適当で構いません。

今の段階で役を演じてみて、感情が素直に流れるかどうか確かめてみます。

ここで何か違うなと感じるようであれば、そこを埋められるように、あなたの別の過去を探してきます。

もしくは、役の気持ちだと思っている解釈が間違っている可能性もあります。

それが原因でピッタリ合わないのかも。

その場合は読解を繰り返してみてください。

なぜ、役はそんな態度をとったのか、そんなセリフを言ったのか、そんな考えにいたったのか。

ちなみにアカデミー賞最多受賞のジャック・ニコルソンは、様々な役の様々な苦悩全てを、彼の家庭環境の思い出から作ってきたそうです。失恋も家庭環境から。破滅も家庭環境から。挫折も家庭環境から。

要は、どんな経験を使おうともその役の気持ちに共感することさえできればいいわけです。

またここでは、役の目的を作る例として取り上げましたが、目的も障害も葛藤も人間関係も仕事も金も全て同じやり方です。

全てあなたの過去の経験それぞれから役の気持ちに共感してください。

一つの思い出で、目的から金まで役の気持ち全部に共感できたらやりやすくて良いのですが、残念ながらそうはいきません。

例えば、

「そういや、俺昔漁師やってて、酒場の女にちょっかい出したら当時付き合ってた彼女にめちゃくちゃ怒られてさぁ。でも、本当はそういう生活自体がイヤだったていうか?金もなかったしさ。なんかもっと違う世界に行きたいなって気持ちだったわけよ」

こんな、役の設定にドはまりの過去があればいいですが、普通はありません。

だから目的は、このときのこの気持ち。

人間関係は、このときのこの気持ち。

など、バラバラに見つけていきます。

忘れてはいけないのは、最終的に演じる時はあなた自身の過去を思いだして演じるわけではないということです。

舞台の上やカメラの前で演じる時、そこにいるのはあなたではなく役です。

役があなたの過去を思いだせるわけないですよね。

あくまで、あなたの過去を引っ張り出してその時の気持ちを味わうのは、役の気持ちを理解し共感するため。

「ああ、役はこういう気持ちだったのか」と心の底から実感するためです。

本番では、役の過去を背負い、役として感じて、役としてそこに立ちましょう。

人間関係

人間関係に関しては、相手役にモデルとなる人物を置きます。

これは、先ほど紹介した本「イヴァナ・チャバックの演技術」の中では「代替者」という演技術として紹介されています。

あなたにとって、主人公の男の女房は誰ですか?

具体的な人物を用意します。

元カノ?女友達?姉妹?お母さん?

もし、その人に浮気をとがめられた経験があれば、その時の気持ちごと利用できるかもしれません。

浮気でなくても、別のことで怒られたり、「こいつがいなければもっと俺自由なのに」と感じるようなことがあれば、その気持ちは使えそうです。

僕だったら元カノを思いだし、浮気ではないけど別の件で怒られたときの感情を使うと思います。

「なんでこんなことでいちいち怒ってくんだよ」

「めんどくせえな」

こんな感情が、役の男の心境に合うようでしたら、その代替者は使えそうです。

ただ、難しいのが根底にはその相手(僕の場合元カノ)に愛というか、信頼がないといけません。

なぜなら、作中の男もおそらく女房をただの邪魔者ではなく、一緒に生きていくパートナーだと認識しているからです。

ただめんどくせえやつという気持ちだけだったとしたら、代替者には不適格です。

仮に、あなたと相手役(女房役を演じる人)が、稽古期間で何度も芝居を合わせることができるのならば、実際にその人をモデルにすることが理想です。

演技以外の普通の話をして、普通にコミュニケーションをとって、できればどこか遊びに行ったり、お酒を飲んだりして交流を持ってください。

そこでリアルにその人から感じた印象を使う方が、労力も少なく、気持ちの対象も明確になります。

ちなみに、よく「共演すると相手のことを好きになる」と言いますが、こういうことですね。

特に恋愛する役なんかだとお互いに好意を持っている状態の方が、演技の質自体上げやすいので共演したら好きになるのはよくわかります。

仕事と金

仕事と金に対する想いも、目的・障害・葛藤と同じくあなたの過去から探してきます。

金はさっき伝えように、貧乏な状態を一度あえてつくっていつでも取り出せるものを用意しておくと便利です。

仕事は、あなたがやってきたバイトか、俳優業への想いのどちらかから想起し、役に共感していくことが多くなるでしょう。

もちろんサラリーマン経験がある方は、それも使ってください。

月曜日の憂鬱な感じとか、残業なんてしたくないのに上司が残っているから帰れない雰囲気とかね。

ただ、なかには経験しようがない職業もあります。

たとえば以前、僕は鹿を追う猟師の役を演じました。

いやー、さすがにわからないです。

獲物を逃しちゃいけない。

足音を立てちゃいけない。

一発で仕留めないと。

など、一般的なことは思いつきますが、それ以上具体的なことになるとちんぷんかんぷん。

結局本番まで時間がないこともあり、猟銃の使い方だけyoutubeの動画をフル活用して頭に叩き込んで本番に臨みました。

でも本来は、その仕事についてできるかぎり知ってください。

仕事って、ある意味その人の人生とも言えるくらい生きてる時間の大部分を捧げます。

それなのに、役の人物の仕事について無知とか普通に考えておかしい。

ところで、菅田将暉さん主演の映画「あゝ、荒野」観ました?

あの映画で菅田君演じるボクサーのトレーナー役を、でんでんさんが演じたんですが、テーピングの巻き方がめちゃくちゃ速くて手馴れてて「俳優になる前本当にトレーナーやってたのかな」と思うほどはまってました。

「役作りのためにちょっとテーピング巻く練習しました」というレベルでは全くない。

あの動作一つで、この人は良い俳優だって思います。

あれだけ手際が良かったら、でんでんさんも、自身の動きから役に乗れるはずです。

もし余裕があったら、映画観てみてください。

該当のシーンは後編だったかも。

その他

役の気持ちにアプローチを続けていくと、目的・障害・葛藤・人間関係・仕事・金に当てはまらないけど、大切そうな役の気持ちがたくさん見つかります。

例えば、、、作中のこの男、自分のことを情けないと思っていたのではないか。

「いつも俺は人のことを羨ましいと思ってばっかりで、結局行動に移さないじゃないか。だから代わり映えのしない毎日しか送れないんだ。くそっ!」

実際に男がそう感じていることは大いに考えられます。

良いアイディアが見つかったし、役の要素にこの想いも加えたい。

「よし、それじゃあ、情けなく演じよう」

とただ思っても、そう簡単にはいきません。

やはりここでもあなた自身の経験から、役の気持ちに合う情けなさを探してきます。

なぜなら「情けない」というひとつの言葉にも、いろいろな種類の情けなさがあるからです。

日本語では表現できない部分です。

微笑みと、爆笑と、嘲り笑いがそれぞれ違う笑い方なのと同様に、情けなさにも、言葉にはなくても実際にはたくさんの形があります。

だから、ただ「情けなさを作ろう!」ではなく、この男が感じている情けなさをあなたの過去の思い出から探してきて実感することが大事。

それでこそ役の気持ちを誤解せずに理解することができます。

役の気持ちを観客に正しく伝えることができます。

やり方は目的・障害・葛藤を作るのと全く同じです。

でも、、、役の想いと同じものを見つけると言っても、実際に役がどう感じているかは僕らにはわかりませんよね。

そのとおり。演技は芸術なので、これが唯一正しいという解答は存在しません。

でも、解答が存在しないならなんでもいいや、面白くなればいいやとは僕には思えない。

「役が感じている想いはこれなんだ」と判断するのは全て演じる俳優の感性です。

だから、役の気持ちを誤解してすくい上げないように、細かい感情のひだを見落とさないように、何度も脚本を読んで、何度でも自分の過去を引っ張り出して、僕は丁寧に作りたいと思っています。

あなたの役を存在させられるのはあなたしかいません。

まとめ

めちゃくちゃ長くなりましたが、役へのアプローチ方法感情編は以上となります。

キャラクター作りと意識の方向編は、別記事にまとめました。

ご興味がある方はこちらもご覧ください。

この記事の内容をまとめると、まずはとにかく台本を何度も読み、

・目的・障害・葛藤

・人間関係

・仕事

・金

について当たりをつけること。

どうせ役を作っていく中で解釈が変わってきます。

それに最初のイメージに固執すると、もっと良い解釈が後から見つかっても、最初のイメージに合うようにムリヤリ感情を押し込んでしまうこともあります。

①まずは台本を何度か読んで、上記の部分の当たりをつける。
②その当たりに対し、当てはまりそうなあなたの過去を再体験し、役の具体的な気持ちに共感していく。

これだけです。

以上2つを、めちゃくちゃ具体的に言うとこんな感じ。

なるほど。役の目的は、閉塞感から抜け出したい・・・か。

俺、過去に閉塞感から抜け出したいと思ったことあったかな?

あ、中学の時受験勉強ばっかりで抜け出したいと思ったわ。よくゲーセンでさぼってた。あの時の気持ち使えるかも。思いだしてみよう。

んー、抜け出したい感じは近いと思うんだけど、作品の中の男は生活費稼がないといけないんだもんな。妻も養わないといけないし。俺、あのとき養ってもらう側だったからなぁ・・・うーんちょっと違うかな。

あ、じゃあサラリーマンになってから、毎日同じ生活続きで鬱々としてたときのこと思いだしてみるか

お。これならいけそう!細かい部分は過去の経験を違う視点から見てみて・・・

あれ?待てよ・・・なんか・・・役の目的が違う気がしてきた・・・

新しい目的がこっちだとしたら・・・、俺の過去に当てはまりそうなのは今度はこれで・・・

エンドレス

ご覧の通り、目的に共感するだけでこの手間です。

これを、目的だけでなく障害、葛藤、人間関係、仕事、金、その他に対してやっていきます。

なのでめちゃくちゃ時間がかかるし、精神的な負担も半端ありません。

でも時間も労力もかけまくってるだけあって、役と繋がったときはもう怖いものなんてない。

誰になんて言われようとも、それが監督だろうと、

「どう考えてもこの役のことは俺が一番わかってる!」

と言い切れます。

「監督が指摘してるそこ、僕もう一か月前に通り過ぎてますよ」なんてね。

後は、本番感情がちゃんと来ることを祈るだけです。

「せっかく役にアプローチし続けたのに、本番まるっきり感情がこなかった」

「もう嘘で演じるしかない」

これ本当に恐怖。

でもありがちです。

僕は、こうなるのが怖すぎて、いろいろな演技術を勉強して対策法を探しました。

それが下の記事です。

僕と同じように、本番で感情がやってこないことを恐怖している人にはめちゃくちゃ役立つと思います。

今回は読解から役の内面のアプローチ方法を学びましたが、「もっと読解力を上げたい!」とお望みの方はこちらもどうぞ。

「役の気持ちに共感して、感情を作る方法はわかったけど、もっと強い感情を出したい」

「感情解放ってよく聞くけど、なに?」

と言う方はこちら。

そして最後に、役作りの方法をまるっと一記事にまとめたのがこちらです。

本記事のように、ショートストーリーを用いて僕のやり方を詳しく説明しているのではなく、台本を受け取ってから本番までのロードマップをざざざーーっと説明しています。

どうぞ!!

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