この記事は、
・日本の俳優ってやっぱ海外と比べるとレベル落ちるよね
・演技が大げさすぎ。全然リアルじゃない
・なんで日本人ってこんな演技下手なんだろう
とお考えの方に向けて書いていきます。
この記事を読むとこんなことがわかります。
①日本の俳優は本当に演技が下手なのか
②演技が下手に見える理由
どうも俳優をやっているヒロユキと言います。
僕は今年で俳優歴13年目になります。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。
また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。
日本の俳優の演技力については、実際僕ら俳優同士の間でもよく話題にのぼります。
「なんか突き抜けてないんだよな」とか、
「あの演技は絶対うそ。何にも感じてないで演じてる」とか。
どの仕事もそうですが、その道をひたすら進んでる人の方が、やっぱり細かいところまで目につくものです。
僕には、野球選手の上手い下手もよくわからないし、プログラマー2人並べてどっちの方が優秀かもわかりません。
これは俳優業も同じです。
僕は、曲がりなりにも13年間演技の道を進んできました。
だから、感動的な舞台を観ていて、周囲のお客さんのすすり泣く声を聴きながら「嘘くさい演技だな」と苦笑いしていることもあります。
性格悪いですね(笑)
この記事ではそんな僕の目を通して、
「日本人俳優の演技は本当に下手なのか。そしてなぜ下手に見えるのか」を話していきますね。
それではスタート!
日本の俳優は本当に演技が下手なのか
「日本人俳優」といったキーワードで検索すると、「日本人俳優 演技下手」といったサジェスチョンが出てきます。
どうもそこそこの数の人が、日本人の俳優は演技が下手だと思っているようです。
下手だと思われている理由をいくつかブログを見て調べてみたところ、大体はこの二つでした。
大げさ
リアリティがない
わかる気もしますね・・・・・・(笑)
さて、このテーマに対する僕の主張はこうです。
確かに海外の演技よりは全体的に劣るけど、世界でも戦えるだけの演技力を持っている人もいる。
特に若手俳優は結構上手い。
なぜ、こう思うのか説明していきます。
テレビドラマと映画の違い
まず、テレビドラマがメインの俳優と映画がメインの俳優を分けるところからスタートしましょう。
ほとんどの俳優はどちらも出演しますが、その中でも特にどっちのイメージが強いかで分けます。
なぜ分けるのかというと、テレビドラマと映画で作品の目指す先が違うからです。
映画はとにかく良い作品を作ることを目指します。もちろん予算の制限はありますが、その中で最高品質を目指します。
しかしテレビドラマが目指すところは、夕食の支度をしながらやペットと遊びながらでも意味が分かることです。
つまり、ながら見でも楽しめるものが一番に来ます。
例えば、テレビドラマでは、探偵ものや恋愛ものが多いですよね。
あれは、テーマの刺激が強く視聴者の目を引き付けるためです。
もし、是枝監督の映画(万引き家族とか)のように作品全体の雰囲気で魅せるものを地上波で流しても、じっくりその世界に浸りたいと思う人は少ないはずです。
毎週欠かさず1時間見続けるのは大変ですし、会社からの帰宅時間や食事の支度などもあるから、真剣にその作品の世界にのめりこむのが難しい。
その点、テレビドラマは起承転結がはっきりしていて、どこで切り取っても内容がそれなりにわかるように作られている。
つまり日常生活を営みつつ楽しめるわけです。
対して映画は、基本的に映画館という日常から隔離された時間と場所で観るものです。
だからこそ、その世界に完璧に浸れますし、2時間~3時間という長丁場でも楽しめます。
刺激が強くない作品でも問題ありません。
10年以上前の作品に「人のセックスを笑うな」という松山ケンイチさんと永作博美さんの映画が放映されました。
これは題名の強烈さとは逆の、いわゆる「やおい作品(山なし、オチなし、意味なし)」でした。
日常の生活が特に起伏なく続きます。結構僕は好きです。
だけど、これは映画だから許されます。
テレビドラマで視聴率を考えたら決してテレビ局はOKしないでしょう。
「次、どうなるの?どうなっちゃうの?」というドキドキ感で引っ張れないからです。
この、テレビドラマと映画の違いは俳優の演技にも関係してきます。
映画ではリアリティを求めるのに対し、テレビドラマは、キーとなる言葉を拾うだけで意味がわかるストーリーにしなくてはいけません。
だから、いわゆるキメ台詞とか、大げさなアクションに繋がりやすいのです。
テレビドラマメインの俳優にあまり演技が上手い人が多くない理由もここにあります。
演出家にも、視聴者にもリアリティを求められないからです。
映画俳優の演技
さて、それでは映画俳優に焦点を絞って見ていきましょう。
リアリティを求める映画なら、どの俳優も演技が上手いかというと、あなたもご存知の通りそういうわけでもありません。
やっぱり全体的な演技のレベルは海外に劣ります。
「銀魂のようなコメディ作品なら、多少嘘くさくてもしょうがない」
と考える向きもあるかと思いますが、ハリウッドはコメディ映画でも大体の俳優は上手いです。
ジム・キャリーなんてめちゃくちゃオーバーに動くししゃべるけど、「こういう人いるかも」という説得力がありますよね。
この「こういう人いるかも」と思わせる説得力、これがとても大事です。
そしてこの説得力は、嘘の演技をしていたら決して出てきません。
撮影中に役者の感情が本当に動いて、初めて説得力が生まれます。
これが本来、役者としてスタートラインであるべきです。
逆に「それっぽく見えること」を演技と考えているようでは、その先に進めません。
この点についてはもうフォローのしようもなく、日本の演技力と演出が海外のそれに達していません。
しかし、日本の俳優全てが演技が下手かというと、そうとは僕は思いません。
また是枝監督の万引き家族を例にとりますが、この映画の出演者はみんな演技が上手い。
この安藤サクラさんの演技なら世界でも余裕で通用します。
海外からの評価もこの通り。
是枝監督は、審査委員長のケイト・ブランシェットとカンヌの受賞者と審査員が集う公式ディナーで話をしたという。「演出と撮影と、役者と全てトータルでよかった」と作品について語っていたケイトだが、ディナーの際には「安藤サクラさんのお芝居について、熱く熱く語ってました」と振り返る。
是枝監督は、ケイトが「彼女のお芝居、特に泣くシーンの芝居がとにかく凄くて、もし今回の審査員の私たちがこれから撮る映画の中で、あの泣き方をしたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください」と言っていたことを明かし、「彼女のこの映画における存在感が、審査員の中の女優たちを虜にしたのだなというのは、その時の会話でよくわかりました」と振り返った。
出典:マイナビニュース様
同じく万引き家族出演のリリーフランキーさんもすごく演技が上手い。
2022年公開予定の日英合作映画『コットンテール “Cottontail”』では、主演を務めます。
イギリス人監督のパトリック・ディキンソンもリリーさんの演技をべた褒めしてます。
リリー・フランキーさんは、今を代表する素晴らしい俳優の一人です。彼が役柄にこめる繊細で人間らしい演技には、毎回驚かされますし、これこそが彼が特別な存在感を放つ理由だと思っています。今回『コットンテール』という愛の物語でリリーさんと一緒に作れる事をとても楽しみにしていると同時に、世界中の人々の心に触れる美しい映画にしていきたいと思っています。
出典:マイナビニュース様
このように日本の俳優でも、世界に通用する俳優はいっぱいいます。
10年くらい前までは、正直海外の方が圧倒的に演技レベルが高いと思っていましたが、ここ最近は、日本人の演技も下手だとは思わなくなってきました。
いや、下手な人も目を向ければ大勢いるんですけど・・・慣れちゃったんですかね。
あんまり気にならなくなってきました。
どうせなら上手い俳優を見ていたい。
さて、ここで問題です。
Q.世界に通用するくらい演技の上手い俳優が日本にもいます。
でも、世界で日本人俳優がまだ戦えていない理由はなぜでしょうか。
答えは単純です。
A.英語が話せないから
これに尽きます。
旅行会話くらいはできても、映画に出演するのにはネイティブ並みの英語力が必要となります。
言語の体系も日本語と英語で全然違うので難しい。
ちなみにアメリカでは、日本と違って出演するのに年齢制限などはありません。
提出するレジュメ(いわゆる履歴書)にそもそも年齢を書く欄すらないようです。
見た目が役に合っていればいいし、演技が上手ければいい。
しかし、英語力はネイティブレベルを求められます。
逆に日本でも、外国人が主役級で出演してる映画って多分まだ無いですよね。
やっぱり言語の壁は厚いです。
なかには、日本人俳優が日本国内で英語を使った演技を求められる場合があります。
シン・ゴジラの石原さとみさんとかそうですね。
この場合であれば、実は英語力を総合的に上げる必要はありません。
スピーキング力さえネイティブレベルまで持って行ければ、英語が話せる俳優としてやっていけると僕は考えています。
別の話になってしまうので、ご興味ある方はこちらの記事をご覧ください。
演技が下手に見える理由
さて、それでは日本人の演技が下手に見える理由を解説したいと思います。
1つ目は、上にも書いたとおり、
それっぽくふるまうことを演技だと思っているからです。
この思考を取り除かない限り、その俳優自身も、映画業界全体も、世界に戦いを挑めません。
それにそんな演技をし続けると、どんどん本当の演技力は低下していきます。
なぜならそれっぽくふるまうのは、他人からどう見えるかを意識しているから、つまり観客や監督の目を気にしているからです。
言い換えると、演じながら役者の理性が働いているわけです。
役者が理性を働かせるのは、演じるまでの練習期間。
この間は、演出を理解したり、脚本の読解をしたり、役の感情を探っていったり、色々頭を使います。
でも、本番の芝居中に役者の理性を働かせてはだめです。
だって、そこにいるべきなのは役であって役者ではないんですから。
役として感じて役として動く、これが俳優の仕事のはずです。
それなのに、「○○な動きをしたらそれっぽく見えるかな」と理性で考えているようでは、役がその場にいません。
はっきり言ってレベルの低い演技です。
「そんなこと言ったって、理性が無かったら監督の指示に対応できないじゃないか。だから何割かは理性を残しておかないと」
と言っていた俳優がいました。
でも、そんな心配は無用です。
いわゆる憑依型と呼ばれる俳優でもない限り、役者の理性を完全に取り去ることはできません。
自分の生活を完全に捨てて役作りを必死にやっても、本番ではイヤでも5%は理性が残ってます。
ほとんどの人は天才じゃありません。
2つめはもう少しまともな話です。
僕は、日本人俳優は、海外の俳優に比べても感情の細かさや強さは負けていないと思います。
ただ
キャラクターが弱い。
あまり大きく動かないし、キャラクターに特徴をつけることを怖がる。
結果、特徴的なキャラクターになりません。
自分が想像できる範囲内のちょっと変わったキャラクター止まりになってしまう。
リアリティを強く求めるとそうなりがちです。
これは監督や演出家が、特徴をつけることを嫌うことも良くあるので俳優のせいばかりではありません。
ただ、海外の俳優はキャラクターをとにかく大きく作れます。
ここはまだ全然太刀打ちできていないです。
具体例を挙げると、仮に、海賊の役を日本人俳優に与えられたとします。
そのとき、ジョニーデップのように、ふらふら揺れながらカッコつけるパイレーツオブカリビアンの船長のような特徴をつけようとするでしょうか。
そもそも思いつかないんじゃないでしょうか。
ぼくだったら思いつきません。
ちなみに、ジョニーデップはキャプテン・スパロウの役の動きはローリングストーンズのギター(キース・リチャーズ)の動きから見つけたらしいです。(豆知識:ディズニーからその動きは映画の品質を落とすと言われ、ジョニーデップは降板手前まで行ったそう)
他のブログを見ても、ここの視点はあまり書いてなかったのでちょっと深堀りしていきます。
日本人の演技が下手に見える理由を調べていると、
「大げさ」
「リアリティがない」
という言葉が多く出てきました。
一見、変わったキャラクターを演じると、もっと大げさでリアリティが無くなってしまうように思えます。
でも実はそれは誤解です。
キャラクターを大きく演じてもリアリティを保つことはできます。
リアリティを保ちつつ大きいキャラクターを演じると、それは「大げさな演技をしている」ではなく、「大げさなキャラクターを、演じている」ように映ります。
演技が大げさなのではなく、そもそもその役自身が大げさな人物なんです。
最初例に出した、ジム・キャリーなんかはわかりやすいですね。
あんなめちゃくちゃな動きをしていても説得力があるのは、「大げさなキャラクターだな」と観客から思われているからです。
キャラクター作りが下手な俳優が、ジムキャリーと同じことをやると、「演技が大げさでリアリティが無くて見てられない」となってしまいます。
パイレーツオブカリビアンのジャックスパロウもそうです。
あの役がチマチマ動いてたら全く魅力ないですよね。
あの独特の動きがあるからこそ、観る人に強い印象を残せます。
キャラクターは、感情とか意識の方向といった他の俳優の要素に比べて、誰にでも目で見てわかるので上手い下手が顕著にでます。
役のキャラクターがその俳優本人とかけ離れていて、変わっていれば変わっているほど、上手い俳優だと認められます。
反面、そこに説得力が無いと見てるこっちの方が辛くなり、一気に下手な俳優だと思われてしまいます。
この評価が分かれるポイントは、役の気分に乗って演じられているかどうかです。
役の気分に乗るというのは、つまり衝動的であるということ。
「これしたい!」「俺はお前が絶対欲しいんだ!」
といった沸き起こってくる衝動に素直に動けるようになると、どんなめちゃくちゃな性格の役でも演技に説得力が生まれます。
なぜなら動きと心がつながっているからです。
これは、一つ目の「それっぽく演じる」、つまり役者の理性で考えながら動く俳優には不可能な演技です。
この説得力を生むためには、役者の理性を取り除いて、役の衝動に乗っかる必要があるからです。
詳しくはこちらのキャラクター作りに特化した記事に書きました。
ご興味があったら読んでみてください。
まとめ
Q.日本の俳優は本当に演技が下手なのか。
という問いに対し、僕の結論としては
日本全体を見ると、まだ世界と戦えるほどの力はないです。
だから、日本の俳優下手だなという感想はたしかに的を射ています。
ただ、俳優個人で見ていくと、安藤サクラさんやリリーフランキーさん、若手では、松岡茉優さん、杉咲花さん、上手い俳優もたくさんいます。
こういう上手い俳優が、世界で活躍し始め、それを目指す若い俳優が今までの日本の演技から離れてもっと本格的に勉強をしていけば変わっていくんじゃないかなと思います。
または、急にしっかりした演技論を教える人がいきなり増えだすとか・・・
まあ、どちらにせよ時間はかかりそうですね・・・
ちなみに、今現在、僕が思う演技が上手い日本人俳優をランキングにした記事もあります。
それぞれの俳優のおすすめ作品も一緒に紹介しているので、ご興味があればどうぞ。
Q.日本人俳優の演技が下手だと思われる理由とは?
テレビドラマと映画で、求める俳優の演技が違うのが一つ。
キャラクターを大きく作るのが日本人は苦手だというのが一つ。
そして「それっぽく演じることが演技」と、そもそも演技というもの自体を間違って認識していることが一番大きな理由です。
演技の基礎とかいう話ではなく、そもそも進むベクトルが全く違う。
それっぽく演じるのを何十年練習しても、演技力は1mmも伸びません。
そしてこれは俳優だけの責任ではありません。
社会全体に、この間違った理解が広がってしまっていることにも原因があります。
例えばバラエティ番組で、「演技力テスト~~!!」と題して、「1分以内に涙を流せるか」とか、「先輩に向かって告白する演技をしてみよう!」とか、これらを演技と言ってしまうところから誤解が広がってしまっています。
まずは正しい演技の認識を。
演技は、「それっぽく見えればいい」という考えの対極にあります。
芝居中本当に心が動き、役として感じ、役として行動することが本当の演技です。
創作物という虚構から生まれたからこそ、最後まで嘘で終わらせたくない。中に詰めるものは全て真実でありたいと想って演じています。
2022/1/8追記
2022年から、演技ワークショップを開講することにしました。
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