メソッド演技の危険性について【実体験も交えてお話しします】

メソッド演技の危険性について【実体験も交えてお話しします】

メソッド演技って危険って聞くけど、一体なにが危険なの?何か危ないことでもやるの?

もしかするとあなたは、「メソッド演技は危ないからやらない方がいいよ」と、聞いたことがあるかもしれません。

果たして本当に危険な練習方法なのでしょうか。

実際僕は、10年以上にわたって他の演技術とともにメソッド演技も学び、実際の役作りに取り入れてきました。

その実体験を踏まえ結論から言います。

はっきり言って危険性はあります

身体的にではなく、精神的にですね。

メソッドを使った役作りで、精神状態が不安定になる、躁うつ病になる、統合失調症になる、はたまた自殺してしまう・・・。

どれも考えられるし、ニュースで「俳優が役作りで……」と聞くと「ああ…ま、あるよな」と思います。

それに僕自身、役作り中におかしくなったことも何度もあります。

ただ、メソッド演技が(日本はともかく)アメリカや世界で広まっているのには、危険性の裏側にその効果がすごいからという側面もあるからです。

またメソッド演技の一つ大きなメリットとして、本番に向けて役に近づいている感をしっかり感じられることもあげられます。

これは意外と大事なポイントです。

俳優は、感情・・・つまり心を使って芝居をするわけですが、心は目に見えないので正しく役を作れているのかどうかわかりません。

「おそらく役の想いはこっち方向で合っているはず・・・」

という憶測で作っていきます。

武器は渡された台本だけ。

どの俳優も完全に全く前が見えない中、手探り状態で、役の目的・苦しみ・想いを丁寧に拾い上げていきます。

この解釈の方向性があっているかどうかわからないことほど不安なことはありません。

もしかすると、「本番前に全然解釈が違っていた」「今までの努力がまるっきり無駄だった」という可能性だってあります。

その点、メソッド演技の論理で、3歩進んで2歩下がるくらいのペースで、「こっち方向で役作りしていけばいいような気がする」と感じられるのは大事な道しるべになります。

もし全くメソッド演技の概要がわからない方はこちらの記事を先にどうぞ。

危険性だけでなく、メリットや基礎練習も説明してあります。

さて、本記事を読むと以下のことがわかります。

  • メソッド演技が危険な理由
  • メソッド演技により病んでしまった俳優・女優
  • メソッド演技を有効に利用する方法(検証中)

それではさっそく参りましょう。

メソッド演技が危険な理由

メソッド演技は、イヴァナ・チャヴァックの演技術を除く他の演技理論と違い、役に近づくために想像ではなく自らの過去を使います。

役の鬱屈した精神、にっちもさっちもいかない状況、怒り、苦しみ、恥ずかしさ、または誇り、喜びなどを理解するために、「きっと彼(彼女)はこう感じているんだろうなぁ」ではなく、「自分の過去のあの時の感情に近い気持ちなんだろうなぁ」を探していきます。

具体的な役作りの流れで言うと、

脚本を読む

とあるシーンで役の激しい怒り(悲しみ、屈辱等)を見つける

その激しい怒りを共感するために自分の過去から同じレベルの出来事を探す

照らし合わせる(1回でピッタリ合うことはほとんどない)

合わない

他の過去から探してみる

また合わない

役の怒りの解釈が違う可能性を考えてみる(Aに怒っていたのではなく、自分自身の無力さに苛立っていたのでは?など)

再度過去と照らし合わせてみる

これだ!!

この流れを、大きな感情が起こるシーン全てにおいてやります。

全ては役の気持ちに寄り添うため。役の気持ちに共感するためです。

つまり、

自分の過去を現実に呼び戻し、当時の感情を呼び起こす。

そして、

②役の人生を追体験して、そのあなた自身の感情が芝居に使えるか確かめる。

この2つを延々と繰り返します。

自分の過去の中でも、とくにマイナスの記憶と結びついているもの。

いじめ。失恋。親子問題。友人問題。落第した思い出。など、自分が大ダメージを受けたものほど、役の強い感情に近づきやすいです。

つまり、もう思い出したくないトラウマをムリヤリ引っ張り出して、役の気持ちをしっかり共感できるまで浴び続けるわけです。

こうすることで、役が抱えている気持ちとあなたの当時の気持ちがリンクし、実感として役の気持ちに共感できます。

ここまでくれば、もう想像上の人物の話ではなく自分ごととして感じられています。

つまり、

・トラウマを浴び続けること。
・役と自分が同化し、どちらが自分かわからなくなってしまうこと。

これがメソッド演技が危険と言われる原因です。

当時の記憶の呼び起こし方

上に書いたように、役の強い感情に共感するためには自分の過去のトラウマを引っ張り出してくる必要があります。

しかし、その当時の感情を思い起こそうとしても、数年前だとあまり詳しく覚えていないかもしれませんよね。

そこで数々のエクササイズを用いることで、その当時の自分の感情・状況を現在に呼び戻します。

例えば、

・ノートに当時の想いを書きまくる。

ノートに書き出すというのは、頭で考えるだけよりも時間がかかります。

しかし時間がかかるがゆえに、するっと流れていかず、気持ちが強く文字に乗ります。

想いが文字として目で見えるのも良いのかもしれません。

僕はいまだに、どの役を作るときもノート一冊は使い切ります。

ノートの書き方はこちらの記事を参考にしてください。

または、

・独り言

ノートに書くより、速度が速くどんどん思い出が展開されていきます。

しかも言葉を口に出すことで、頭で考えるだけより、深く当時の状況を思いだせます。

何も物を持たず、ただベラベラしゃべっていればいいので、どこでもできるし、本番前に気持ちを湧き起すこともできる使い勝手の良い練習です。

他には、たとえば僕は、カラオケに行って自分の過去が引き起こされそうな曲を探して叫びまくります。

失恋した役なら失恋ソングとかですね。

本番前は週5とかで一人カラオケで役作りしています。

メソッドで推奨しているやり方というわけではないですが、その当時の感情にタッチできればなんでもOKです。

とにもかくにも、できれば二度と見たくない過去や、必死に逃げ続けてきたトラウマを再度くらう必要があるわけです。実際、半端なくしんどいです。

それに加えて、「トラウマを一回呼び起こしたら、オールオーケー。本番でも問題なく感情があふれ出てきます」というわけでもありません。

ですから、本番に自然と役と重なって感情があふれ出てくるように、何度も同じトラウマをくらい続けていきます。

精神的にとてもきついです。

もう一生見たくない過去を望んで何度も体験していくという究極のドМ作業です。

俳優はMじゃないとできません。

しかも、感情が大きく動くシーンが一つならまだいいですが、重要な役であればあるほど、作品内で感情が大きく動くシーンの数は増えていきます。それぞれのシーンにマッチする感情を自分のトラウマから探して行ってください。

非常に時間はかかるし、ストレスも半端ありません。

さらにひどいのが、そこまでやっても本番に望み通りの感情が湧き上がってくるかはわからないことです。

感情を操作することは人間にはできません。

俳優であってもできません。

誘導してくるしかないのです。

こうして、役のシーンが成立するような自分の過去を見つけたら、今度は役の人生を追体験していきます。

追体験とは、自分以外に起こった出来事を(想像で)体験していくことです。

ただ単に想像で体験するのとは違います。

あなたは、ここまでで自分の過去のトラウマを引っ張り出してきて、役の想いに共感できる状態になっています。

この段階を経てから追体験することで、役の気持ちに寄り添うことができます。

相も変わらず辛い過程です。下手したら自分の過去のトラウマとプラスして2倍の苦痛を味わいます。

ただ唯一の救いは、そこまでやってやり尽くしたからこそ、役の感情に本当に深い部分で共感できているはずです。

「ふざけるな」

台本に書いてあるこのたった五文字のセリフが、あなたにしか発せないすさまじいものになってあなたの身体から飛び出していきます。

他の俳優には真似できない重さを持ったセリフになります。

事実、どんな名優、それがアルパチーノでもロバートデニーロでも、あなたのその言葉と同じレベルの重みをもつことはできません。

なぜなら、それはあなたの過去と役の人生をすり合わせ続けて得たものだからです。

芝居本番でそのセリフを発したとき、あなたは泣くかもしれません。笑いながら言ってしまうかもしれません。どのように感情が動くことも考えられます。

でも、どんな表現になろうとも、心の底から出てきたその言葉は、誰かを感動させる力を持った真にリアルな演技です。

これがメソッド演技という危険の中に自らを投じ、自分を苦しめ続けてようやく得たものです。

メソッド演技により病んでしまった俳優・女優

それでは、実際にメソッド演技により病んでしまった俳優・女優を見ていきましょう。

ヒースレジャー(映画ダークナイト)

もう有名すぎて紹介するのも若干恥ずかしいですが、2008年に放映されたダークナイト。

ヒースレジャーは、バットマンの敵役ジョーカーを演じました。

まだ映画を見ていない方は是非見てみてください。

好き嫌いはどちらでもいいんですけど、俳優をやっていると絶対この話題は出てくるので。

このヒースレジャー演じるジョーカーの演技は、色々な人が言う通り僕もすごいと思います。

一応youtubeで語った動画があります。ちょっと長いので暇なときにでも見てみてください。

さて本題に戻ります。

ヒースレジャーはこの映画を撮影し終わり、公開される前に薬物中毒で死んでしまいました。

原因はこのジョーカーの役作りにより精神が安定しなくなってしまったからと言われています。

亡くなった数年後に、ヒースレジャーがホテルに1ケ月閉じこもって役作りをしていたときのノートが公開されました。

そのノートの冒頭は

「俺はロンドンのホテルの部屋で、1ヶ月ずっと閉じこもって、このちょっとしたダイアリーを作っている」

から始まります。

そしてノートの最後には「bye-bye」という文字が。

このbye-byeは、ヒースがすでに死のうと思っていて自らの人生に対して言ったものなのか、ジョーカーという役が終わったから役に対して言ったものなのか、はたまたその両方なのかは定かではありません。

僕は芝居の本番が終わった後は、役に(小声で)お別れを言うことが多いので、ジョーカーという役に向かってヒースも言ったのだと思っています。

どういった役作りをしたら、死んでしまうところまでいってしまうのかはわかりませんが、ヒースは役作りの途中に、前ジョーカー役を演じたジャック・ニコルソンよりアドバイスをもらっています。

「役の底を覗き込みすぎるな」

ジャック・ニコルソンから見ても危うく見えたのでしょうか。

しかし忠告も空しく役の底を覗き込んでしまい、亡くなってしまいました。

まあもし途中で、「これ以上は危ないから止めとこう」と判断をしていたらジョーカーのあのクオリティには達していないでしょう。

ヴィヴィアンリー(映画 欲望という名の電車)

1951年公開の「欲望という名の電車」からヴィヴィアンリーです。

以下、映画のあらすじです。

   テネシー・ウィリアムズの名戯曲を完全映像化した。この作品は、映画史上にも残る二大スターの共演だけあって、51年度アカデミー賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞、美術監督・装置の各賞を受賞した名作。
   休暇と偽って妹のステラを尋ねてきたブランチ。だが、ブランチを執拗に嫌う妹の夫スタンリーは、彼女と顔を合わせるたびに暴言を浴びせ続ける。揚げ句に恋人のミッチにブランチの暗い過去をばらし、彼女を精神的に追い込んでいく。
   現実を見ず、空想の世界にどっぷり浸っているブランチの素行に、スタンリーがイライラを募らせる。しかも、それを妊娠中の妻ステラにあたり散らし、暴力をふるう姿はまるでけだもの。だが、それがかえってスタンリー演じるマーロン・ブランドの魅力を最大限に引き出しているのかも。(近藤鈴佳)
出典:amazon

主演スタンリーを20世紀最高の俳優と呼ばれるマーロンブランドが演じ、ヴィヴィアンリーは、そのスタンリーの妻の姉ブランチを演じます。

このマーロンブランドの演技がそれまでの映画では見たことがないほどすごいと称賛され、この映画からメソッド演技が世界に広く認識されたと言われています。

さてヴィヴィアンリー、とにかくこのスタンリーという粗暴な男にずっと嫌われ続ける役を演じます。

この映画の前から元々双極性障害(躁鬱)の発作があったりしたようですが、この役作り以降、下のようなコメントを残しています。

「私は劇場で九カ月間ブランチ・デュボアを演じていました。それが今では彼女(ブランチ)が私を牛耳っています」
「倒れそうで、気が狂わんばかりだった」
出典:wikipedia

このあと、違う舞台で劇評家に演技をこき下ろされ、完全に精神病を発症してしまいます。

欲望という名の電車の役だけで病んだわけではないのでしょうが、コメントから見ても少なからず精神にダメージを受けていますね。

僕の実体験

僕自身もメソッド演技を使ったために、役作りでおかしくなることが何度かありました。

ある時は、本番前日に電車の中で涙が止まらなくなりました。

ある時は、役と自分が半分重なり半分分離し、

「お前は明日の告白で彼女と付き合えるけど、俺は本番終わったら別れなきゃいけねえんだよ!」

と役とケンカすることもありました。

ノイローゼというか病気ですよね。

この時は、自分の過去を思い出そうとすると、それが自分の過去なのか役の過去なのかの判別もできなくなっていました。

どう考えても危険な状態ですが、役に近づいている感じがあるので正直ちょっとうれしかったりします。

また、「僕のいた時間」というドラマで三浦春馬さんが演じた主人公(ALS(筋萎縮性側索硬化症)という脳の指令が神経を通じて筋肉に届かなくなる病気を持つ)を僕も演じたことがあります。

この時は、練習中頻繁に左膝の力がカクンッと抜ける症状が起き、本番に近くなると日常生活でも左足の力が急に抜けて、まさか本当にALSになってしまったのではないかと恐怖を覚えました。

ALSは現在、原因と治療法が見つかっていないのです。

また、僕が製作・脚本・主演をした 「pop thank culture you」という作品では、役作りだけが原因ではないかもしれませんが、役の人物ともども自分を追い込み続けて、自律神経失調症になり2週間寝込んだこともあります。

このようにメソッド演技を使うと、一つの役を作るのに精神に大きくダメージを残します。

しかし苦しんだ分、役の本当の気持ちに完全に共感できたときは、このために今までやってきたんだ!と感じられます。

まさに命を削っている感覚です。

メソッド演技を有効に利用する方法(検証中)

このようにメソッド演技は

爆発力はすごいけどその爆発は自分を巻き込む

という類のものだと僕は感じています。

今までは、「それでこそ役者」と思ってやってきましたが、長く役者活動をしていくのであればこのままじゃ持たないと最近は感じています。

そこで精神の負担を減らすためにメソッド演技以外の演技テクニックを併用する工夫が必要なのではと考えています。

例えば、スタニスラフスキーシステムの「注意の輪」

スタニスラフスキーシステムは意識を、日常と同じように舞台上でも向けることによって、普段の感覚や感情の流れが演じてるときにも自然と湧き上がってくるように操作することを教えています。

また、他にはマイケルチェーホフテクニークの「サイコフィジカル」

チェーホフテクニークは、精神と身体の関係性について学びます。身体の動きから感情を呼び起こし、感情の動きから身体が動かされます。

こういった他の技術を併用することにより、精神に多大な負担をかけずに良い演技ができるのではと考えて、今検証中です。

結論

う~~ん。じゃあ結局メソッドってやった方がいいの?危ないかな・・・?

正直あなた次第です。

無責任な回答になってしまってすみません。

自分の過去(トラウマ)と向き合い続けて、役の本当の気持ちとすり合わせ続けて、本当に役の気持ちを共感できたときは何とも言えない快感があります。

僕が思うに、これはメソッド以外では感じられないレベルなんじゃないかなと思います。

ただ、良い演技をするということが目標であれば、メソッドをやらなくてもそれは叶うとは思います。

事実、ロバートデニーロもアンソニーホプキンスもメソッド嫌ってますしね。

繰り返しになりますが、選択はあなた次第。

完全にはまった時の爆発力を求めるならやってみるのもいいと思います。

ただ、少し勉強してみたいからちょっとだけメソッドをやる。というのは、あまり役に立たずに終わります。

メソッドは時間がかかります。

メソッドは自分の過去を使う(感情の記憶)だけでなく、五感の記憶やリラックスなど色々練習方法がありますが、どれもすぐに使えるようになるものではありません。

腰を据えてやれる覚悟がある人でないと効果は薄い・・・むしろ間違った認識をしてしまいマイナスになってしまう可能性もあります。

さくっと演技が上手くなりたいのであれば、この道を通らないのもいいかもしれません。

演技沼に浸かりたい人に限りメソッドをおすすめします。

2022/1/8 追記
2022年から、演技ワークショップを開講することにしました!
見た目だけの器用な演技に逃げないガチの演技レッスンを行います。
この記事でメソッド演技について僕が伝えたいことは、書き尽くしましたが、正直、文章だけだとわからないところもやっぱりありますよね。

このワークショップでは、演技練習の他に、3~4カ月ごとに1つのシーンを役作りして演じてもらいます。
その期間、メソッド演技(や他の演技術)を使って役作りに取り組めるので、役へのアプローチ方法を肌で感じることができます。
質問もいつでもできる環境です。

また、あなたの過去や、役の気持ちに潜っていくエクササイズも複数教えていくので、どんどん役作りに取り入れていって下さい。

ワークショップの詳細は下のリンクからどうぞ。

ヒロユキの演技ワークショップはこちらから。

本物の演技力が身につく演技ワークショップ【ACTRIP】