この記事は、
・どうやって役作りをしていけばいいの?
・演技ノートってどう書けばいいの?
こんな疑問をお持ちの方に向けて書いていきます。
この記事を読むとこんなことがわかります。
役作りに必須の、演技ノートの書き「始め」方
どうも俳優と演技講師をやっていますヒロユキです。
今年で俳優歴15年目。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。
また、この15年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。
以前、役作り(とくに役の内面作り)には演技ノートを使うと良いよと、こんな記事を書きました。
まだ上の記事を読んでなければ、まずそちらを先に読んでみてください。
基本的な演技ノートの書き方は、上の記事に全部書いてあります。
この記事では、最初に何から書き始めればいいかについて解説していきます。
書き始められない原因
最初にちょっとだけ僕の話をさせてください。
最近、僕自身演じる機会があり、いつものようにノートを書き始めようと思ったんですけど、非常に面倒くささを感じてしまいました。
ノートを書いていけば役の内面を深められることもわかっているし、僕の役作り方法ではノートを書くことは必須でもあります。
だけど、面倒くさい。筆がのらない。やる気が起きない。
なんでこんなに気持ちが前向きになれないんだろう。
考えた結果わかったことは、
ノートを書くと、ほぼ間違いなく心が重くなるから
です。
なぜなら、役の想いを深く理解しようとすると、自分の過去の苦い思い出を引っ張り出してくることになるから。
あなたと同じように人間誰しも悩みがあります。それは役の人物も同じです。
なので、その役の悩みに深く共感するためには、自分の中の怒りや哀しみを再度感じなおすことが必要になってきます。
その結果、今までいくつもの役作りをノートを書くことで行ってきた僕にとっては、「ノートを書くと凹む」ことが無意識にインプットされていて、だからノートを書き始めることが億劫になるのかと考えました。
一度凹むと、その後の予定もやる気が起きずこなせないですしね。
でもこれは初めてノートを書くあなたにも、形は違えど似たような面倒くささがあるのではないかと思い当たりました。
初めてノートを書く方にとっては、「何を書けばいいのかわからない。だから書き始められない」というのが、最初の障害かと思います。
よくわからない → 面倒だし、後回しでいいか → セリフでも覚えるか
みたいな。
「凹むから面倒」か、「よくわからないから面倒」かの違い。
どちらも結局は面倒だから後回しにしてしまっている。
であれば、両者ともにこの面倒くささを取り除けばとりあえず書き始められそうです。
面倒くささを避ける
前置きが長くなりました。
ここから、ノートの書き始め方について解説します。
面倒くささを取り除くには、書くこと自体にストレスがなければOKですよね。
ならばそういう状態に持って行きましょう。
まず書き始めは、
役の根幹や大事な部分について書かない
役作りするからには、役を深めたい。レベルアップしたい。早く本番に使える良い演技をしたい。とつい先を急いでしまいます。
そのため、役のベースとなる想いや、目的・障害・葛藤など重要なところ(詳しくは 俳優の抑えた演技が良いってどういうこと?どうやるの? を参照)をゴリゴリ作っていきたくなりがちです。
でも、これが面倒くささを生む原因。
「やらなきゃ」「成長しなきゃ」があなたのストレスになっています。
このように成果を急いで求めるのではなくて、普段のあなたの思考の一部を役のことにちょっと使うくらいが丁度いいです。
「お、新しいラーメン屋だ。旨そうだな。でも昨日もラーメン食ったしな~。二日続けてはさすがになしかな。。。」
「最近、運動してなさ過ぎてデブってきてる気がする・・・やばし・・・」
こんな日常の思考の流れで、
「今度やる役って、普段なにしてんのかな。友達と鍋パーティとかやってんのかな。キャラ的に鍋奉行っぽそう。そんで周りからウザがられてそうw」
みたいな。
これくらいのゆるさがスタートにはちょうどいいです。
思いついた妄想をノートにとりあえず書いていってみましょう。
こんなことやっても役作り進まないんじゃ?と思うかもしれません。
いえいえ。
こういう台本には書かれていない妄想をグダグダズラズラノートに書き続けていくと、そのうち役の行動やセリフにピッタリ当てはまる妄想が生まれてきます。
「あ!野球部のキャプテンやってたから、大人になっても変にマジメな感じが抜けなくて、人と衝突してばっかりいるのか!」
ってな感じです。
大切なのは、あなたの中で、その妄想と台本の中の役のセリフや行動が一貫していると腑に落ちること。
腑に落ちれば、演じる時そのセリフや行動に説得力が生まれます。
台本に書かれている文字情報を理解するのではなく、感覚として役の行動が理解できるからです。
究極的な話を言えば、ノートに書く作業というのは、役のセリフや行動があなたの中で腑に落ちるために行います。
より正確に言えば、役の想いを「自分ごと」にするために行うわけです。
役と自分を繋げる
このように、役の本当に大事なところにいきなり斬り込まないで、ふわふわと役の生活をノートにグダグダ、ズラズラ書いていきます。これは完全に妄想で構いません。
とにかくあなた自身にストレスが生まれないことが大事。
役作りがストレスで後回しにしたくなってくると、結局は練習時間も短くなり、もっと辛くなってきます。
焦らず、ぼんやり、ふわふわ役に触れ続けましょう。
しばらく続けていくと、そのうちあなたの過去や現在の状況(または想い)と、役の状況(または想い)がリンクするところが見つかってきます。
それは共通点かもしれないし、差異かもしれません。
例えば、役が兄弟と仲良くしているシーンが台本上またはあなたの妄想上で出てきた場合、
・あー、私も兄弟とは仲いいからこのシーンよくわかるわ
or
・あー、私は兄弟と仲悪いからこんなことなかったな
or
・あー、私は一人っ子だからこんなことなかったな
など、なにか自分とつなげられるところが見つかります。
それが見つかったら、今度はノートに自分のことをグダグダズラズラ書いていって下さい。
自分の身に本当に起こったことなので、簡単に書けるはず。あのとき、こんなことがあって、私はこう思ったけど、お兄ちゃんはやってくれなかったから、私は悲しくなって、そしたら妹が~~~~みたいな感じでどんどん思いだしながら書いていきます。
思い出に浸りながらどんどん書いていきます。
ポイントは、丁寧に書くのではなく、感情のままに書くこと。
怒りや喜びや嫉妬心、悲しみ、なんらかの感情が上がってきたら、その感情のまま書きなぐってください。文字が汚くなってもいいし、線からはみ出てもいい。同じ言葉を繰り返し何度書いてもいい。
好きだ好きだ好きだ好きだ!!で、1ページ埋めても全然問題ないし、むしろ素晴らしい。
このように筆が乗ってきたら、そのあなたの感情は、役の想いに共感できるものなのか考えてみます。たとえば役の失恋の辛さは、あなたの今思いだしている過去の失恋の辛さと同じ形なのか。
ここでもあなたの腑に落ちるかどうか(ピンとくるかどうか)を判断に使ってください。
ピンときたらその過去を掘り下げることで、役の想いに共感し演じることができるでしょう。
深く共感できたなと感じたら、別の感情にも共感できるか同じように探究していきます。
逆にピンとこなかった場合の対処法は二つあります。
①自分の過去を改変する
自分の過去の一部がもし違っていたら、役と同じ想いになれるのかな?と考え、想像してみる。
例えば、俺は合コン終わりに日和って一人で家に帰ってきちゃったけど、もし強引にでも連絡先を聞いていれば、役と同じように好きな子に連絡するかどうかで悩んだかな?
など
自分の過去を改変することで、役の気持ちに共感できるのであればOK。別の感情でも同じようにリンクするところを探していきます。
注意点としては、決して役を自分に合わせようとしてはいけないということ。
役作りという名のとおり、俳優の仕事は自分が役に近づくことです。
役を自分に近づけることではありません。
ここだけは間違えないように。
②別の過去からリンクする部分を探す
同じ失恋というイベントで自分の過去を探ってみても、なんだか当てはまらないような気がすることは多いです。
こういう時はムリヤリ結び付けようとするのではなく、あっさり諦めて別の過去から探してみましょう。
もしかすると役の失恋の辛さは、あなたの失恋からではなく、友達とケンカしたときの思い出だったり、親に怒られた時の思い出の方がリンクするのかもしれません。
こればっかりは頭で考えてもわからない。
またノートにグダグダズラズラ書きながら探していきます。
このように役と自分をリンクし続けていくうちに、自分の役に興味を持ち始め、自然と役の深い部分も見つけていこうと感じてくるはず。
ここまでくれば、もうその役にコミットしている状態です。
書き始めの「なにを書けばいいかわからない」は通り過ぎ、今は役の想いに共感するために、自分の過去をひっくり返して必死に共通点or差異を探している状態。あとは芝居本番までこれをひたすら繰り返して役に近づき続けていきます。
コツは『単語』
腑に落ちる、ピンとくるものを見つけるコツは、最適な『単語』を見つけることです。
例えば、「好きだ!」では、あなたにとってピンとこないかもしれない。
でも、「愛してる」「I want you」「君しかいない」など、似たような言葉をノートに書いてみてください。
セリフとは異なるけど、僕には「愛してる」の方がピンとくるんだよな。みたいなのが見つかるかもしれません。
他にも、この役は悲しいんだろうな。と思った時、
悲しい、、切ない、、やるせない、、死にたい、、絶望、、孤独。。。
と探していき、
ああ、この役は孤独だ。孤独なんだ。
と、ぴったりはまる言葉が見つかることがあります。
これが役とあなたを結び付ける単語で、見つかると演技に非常に強い説得力を生み出します。
「悲しい」というセリフではピンとこなかったけど、この悲しいというセリフの裏には「孤独が辛い」という意味が籠められてたんだ。これならわかる!みたいな感じですかね。
単語探しのオススメはカラオケです。
カラオケで、役の想いに近いジャンルの曲(恋愛ソング、友情ソングなど)を入れまくってみると、自分では思いつかなかった単語や一文があったりして、一気に役作りが進むことがあります。
良かったらチャレンジしてみてください。
台本に書かれていない過去を勝手に作ってもいいのか
さて、ここまで妄想で書いていいと言ってきましたが、「台本に書かれていない過去を勝手に作ってしまっていいの?」という疑問も浮かぶかもしれません。
これははっきり言って、何の問題もありません。
ただし、役や作品を歪めない程度に。が原則です。
役や作品を歪めないラインというのは曖昧ですが、ほとんどの人が考えるより自由が利きます。
ドラえもんを例にとって、どうしてドラえもんがのび太の部屋に来たかについて考えてみましょう。
あなたはのび太役を与えられたことにします。
これだったら、想いが天に通じたというちょっとスピリチュアルな感じにはなりますが、あなたの中で腑に落ちていれば問題ありません。夢見がちなのび太というキャラクターで通ります。
一方、
この場合は役と作品を歪めてしまっています。
のび太自身、自分のダメさ加減はわかっているものの、死にたいという希死念慮まで作品には描かれていません。そこにこういった設定を盛り込んでしまうと、仮にあなたのなかで腑に落ちたとしても、のび太という役が原作とずれてきてしまいます。
役によっては、歪めているかどうかの線引きが極めて曖昧な場合があります。
「こんな過去や設定を盛り込んで大丈夫かな。歪めてないかな?」と不安になった時は、もう一度作品を読み直してみましょう。
あなたの作った設定で、つじつまが合わない部分が無ければ大体はOK。
尖った設定にすると、つじつまが合わないところが出てくることが多いです。
例えば、のび太は毎日死にたいと思っているとした場合、じゃあしずかちゃんと結婚したいっていうセリフはなんでのび太の口から出てくるんだろう。とかですね。
もしそうなった時は、「解釈が間違いだった。違う方向で考えてみよう」と、大して気にせずノートの違うページにまた新しい設定をグダグダズラズラ書いていきましょう。続けていれば、いつかハマるところが必ず見つかります。
まとめ
この記事では、ノートの書き始め方を解説しました。
まとめていきます。
①まずはストレスを感じない程度に、役のことをぼんやり考えながらノートに書き出してみる。
完全に妄想で構いません。つじつまが合わないなと思ったら、別のページに全く新しいことを書けばいいだけ。役の根幹を掴もうとするのではなく、役に触れ続ければそれでいいです。それがいいです。
無理しない。焦らない。NOストレス。
②次に、自分の場合はどうだったかなを書いていく。
自分の過去を思いだしながら、感情的に書きなぐっていきます。
③役と自分の共通点・差異を見つける。
①と②を繰り返しながら、役とあなたの共通点・差異を探していきます。見つからなかったら、自分の過去を改変するか、別の過去を引っ張り出して探していきましょう。
時間はかかります。それでいいです。それが役作りです。
④次第に役の深い部分の共通点・差異も探していく。
役作りにコミット(熱中)してきたら、ちょっと役の深い部分(目的、障害、葛藤または人間関係や状況)についてもあなたの過去から共感できるところを探してみましょう。ここでも、いつでもNOストレスの①に戻っていいと思っててください。「作りきらなきゃ」と思うと心が疲弊します。
もしかすると①、②、③のどこかで、ふっと役の深い部分に意図せず触れてしまうかもしれません。そのときは無理して、ストレスの少ない方に戻さなくていいです。役の深い部分に興味が出てきたなら、そのタイミングでそこをしっかりと掘ってみる。自分の過去と照らし合わせてみる。
でももしまだ自分とリンクする部分が見つからなかったら、無理せず一旦保留でOK。また外側から妄想とリンクを繰り返してストレス少なくやっていきましょう。
役作りは時間がかかるものです。
慌てて、いきなり答えを求めようとすると、あなたの心も疲弊するし、役の想いを誤解したまま演じることにもなりかねません。
役と長く一緒にいることが大切ですよ。
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