【セリフに感情を乗せる演技術】”PG”の効果と具体的なやり方

【セリフに感情を乗せる演技術】”PG”の効果と具体的なやり方

この記事は、

・いざ本番になると、セリフに感情が乗らない。

・なんかセリフだけ浮いてしまう。

・気持ちとつながってない感じが居心地悪い。

こんな想いをお持ちの方に向けて書いていきます。

この記事を読むとこんなことがわかります。

①セリフと感情が絡むPGの効果

②PGのやり方

③PGを実際の演技に利用する方法

どうも俳優をやっていますヒロユキです。

僕は今年で俳優歴13年目になります。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。

また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。

ここまで、記事のタイトルからずっとPG、PG言い続けてきました。

「一体それってなんなの?」っていい加減思いますよね。

PGとは、ロシアの俳優、演出家、演技教師のマイケルチェーホフが教えたマイケルチェーホフテクニークの奥義です。

正式名称は、

サイコロジカルジェスチャー(Psychological Gesture)

略してPGと呼ばれています。

PGは、セリフと感情を絡ませるのに非常に有効なテクニックです。

「上手くセリフと感情が繋がらない」とお悩みの方には、間違いなく役に立ちます。

さらに、PGの効果はそれだけでなく

・役の目的をつかむことができる

・目的を邪魔する障害を感じるためにも使える

・本番前に、感情を高めることにも使える

と、応用範囲がとても広いです。

はっきり言ってめちゃくちゃ便利なテクニックです。

さっそく、PGに一体どんな効果があるのか、詳しく見ていきましょう。

スタート!

PGの効果

写真:マイケルチェーホフ

PGは本当に応用範囲が広いです。

普通、感情解放の練習・テクニックなら、感情の強さを高めるだけ。

キャラクター作りなら、キャラクターをより良く作るためと、一つの練習の効果は大体一つです。

しかし、PGはできるようになれば、演技で発生する問題の様々なことに応用が利きます。

今一度、PGの効果を箇条書きにして表してみますね。

PGの効果一覧

・セリフに感情を乗せられる
・作品全体の役の目的をつかむことができる
・シーンごとの役の目的をつかむこともできる
・目的を邪魔する障害を感じるためにも使える
・本番前に、感情を高めることにも使える
・湧き上がってきた感情と身体の動きが連動する
・役作りの時間を超大幅に短縮できる(←詳しく説明します)

なんと、パッと思いつくだけでも7個も効果がありました。

いかに応用範囲が広いかわかります。

僕は、マイケルチェーホフテクニークを学ぶまで、役の内面に関してはメソッド演技のやり方で役作りをしていました。

メソッド演技では、役の過去や取り巻く状況と、自分自身の過去の出来事をすり合わせていきます。

そして役の人生を追体験することで、役に共感していきます。(詳しいメソッド演技についてはこちらの記事で)

このやり方は、自分自身の辛い体験を引っ張り出してくることになるので精神的に非常にしんどいです。

そして時間も非常にかかる。

でも苦しんだ分、芝居では感情の爆発力がすごいというメリットがあります。

だから僕は、毎回この方法で役作りをしていました。

しかし、ある作品の役作りをしていたとき、精神の損耗が激しく、自律神経がぶっ壊れ2週間くらい動けなくなりました。

なんとか回復したものの、この方法だけでは役者人生、長く続かないなと感じました。

そこで見つけたのが、マイケルチェーホフテクニークのPGです。

PGを使うことで、メソッド演技より大幅に精神の損耗を防ぐことができます。

自分自身のトラウマや、苦痛を引っ張り出さなくて済むのは本当に楽です。

さらに、役作りにかかる時間が大幅に短縮できることがわかりました。

メソッド演技主体で役作りをすると、最低でも役作り期間は2~3ヶ月は欲しい。

役の内面に潜っていく時間が必要なので、どうしても長い役作り期間が必要です。

それに対して、マイケルチェーホフテクニークを使った場合、2週間もあればそこそこに見れる演技まで持って行くことができます。

もちろんメインのテクニックはPGです。

これならば、台本をいただいてから撮影まで日がないような作品にも、演技に嘘をつかず出演することができます。

そう。

このテクニックのすごいところは、期間が短くてもしっかりセリフに想いが乗せられること。

セリフをそれっぽく話すだけの嘘の演技になりません。

でも。

役作りの期間が許すなら、メソッドの内面を深く掘り進む作り方と併せてPGを使用したいなと思います。

役と深く繋がれていると感じるのは、やっぱり役と長い期間向き合い続けるメソッド演技の方です。

PGを役作りに取り入れてからまだ日が浅いのですが、今の僕の感覚としてはこんな感じ。

マイケルチェーホフテクニーク(PG含む)

期間効率:高い
演技の爆発力:中

メソッド演技

期間効率:低い
演技の爆発力:高い

使い勝手はマイケルチェーホフテクニークの方が良くて、爆発力はメソッド演技と言った印象です。

でも、短期間でも観客に見せられる演技まで持っていけるPGは間違いなく有用。

それに、マイケルチェーホフテクニークはどれも他の演技術と併せて使用することが可能です。

「これ以外やっちゃダメ!」みたいな頑固さが無い。

だから、あなたがスタニスラフスキーや、ステラアドラーや、イヴァナ・チャバックをメインにしていても、気後れせず取り入れることができます。

それでは、マイケルチェーホフテクニークの奥義”PG”とは一体どうやってやるのか。

次の項で説明していきますね。

PGのやり方

PG(サイコロジカルジェスチャー)とは、名前の通り、Psycho(精神)をGesture(行動)で表すことを言います。

PGは上で書いた通り、役の目的をつかむのにも、セリフに感情を乗せるのにも使えます。

どの目的で使うとしても、やり方は同じです。

この項では、PGを使った役の目的のつかみ方を例に解説していきます。

PGの大きな流れは以下の通りです。

①特定のシーンの役の目的を、一つの単純な行動(ジェスチャー)に置き換えます。
②そして、そのジェスチャーに役の想いを乗せます。
③芝居本番では、心の中でそのジェスチャーをやることによって感情を呼び起こします。

具体的には、以下のように進めます。

①まず、役の目的を見つけます。

例えば、あなたの役が好きな子に告白するシーンだった場合。

役の目的は「好きだと伝える」、「告白にYESと言ってもらう」、「告白することで引っ越しをあきらめてもらう」などいろいろ考えられますが、ここでは単純に「好きだと伝える」のだけが目的だとします。

②この「好きだと伝える」という目的を、解消できるようなジェスチャーを見つけます。

たとえば「(物 or 気持ち)をあげる」というジェスチャーが、「好きだと伝える」にピッタリくるとします。

これは、演者の感性によって違います。

あなたが、「放り投げる」や「殴る」のほうが、好きだと伝える目的に合う動きだと思うならそれで構いません。

ここでは「あげる」で解説します。

③簡単なジェスチャーを決めたら、その動きを「始め・中間・終わり」の3つに設定します。

例えば、こんな感じです。

始め:胸の前に、両手をお椀の形にして立つ。

中間:その両手を前に差し出す。片足も一歩前に踏み出す。

終わり:両手を前に出したまま止まる。意識とエネルギーだけは、前方に放出し続ける。

この一連の動きはあくまで例です。

PGは、あなたの精神と行動を繋ぐものなので、最善の答えはあなたの感覚がすでに知っています。

色々ジェスチャーを試してみて、あなたが一番しっくりくる「あげかた」を見つけます。

中間の動作に関しては、ジェスチャーを見つけると言うより、始めと終わりをつなぐ動きという位置づけです。

ですから、始めと終わりだけジェスチャーを決めれば、中間は自動的に決まります。

④この一連のジェスチャーに、役の想いを絡ませます。

練習中、何度もジェスチャーと想いを絡ませます。

この例で言えば「想いよ届け!」と念じながら「あげる」というジェスチャーを繰り返すわけです。

やりにくかったら、最初は言葉とともに動いてみましょう。

「想いよ届け!」と言いながら、上記の始め・中間・終わりの動きをしてみます。

PGのコツは4点。

PGのコツ

1.すべてのジェスチャーはできるだけ身体全体を使う。
 ⇒腕だけ、手先だけだと、ジェスチャーの効果は薄いです。

2.始めの前に、いまからどういう気持ちでPGを行うのか心の中で確認する。
 ⇒ジェスチャーだけ漠然とやっても効果はありません。「この想いを叶えるために、このジェスチャーを今からやる」と自らに確認します。

3.終わりの後、エネルギーを指の先の方向に出し続けます。
 ⇒こうすることで、想いをより強く感じられます。

4.同じ動きを3回繰り返す。
 ⇒「押す」動きなら、1回目押したあと、一歩前に出て、また押して、また一歩前に出て、3回目の「押す」動きをします。ジェスチャーを一回だけやるよりも、だんだんと想いが強くなっていくのが感じられるはずです。

PGは、このように役の目的と動きを連動させていきます。

そして芝居直前に、あなたが作ったジェスチャーをすることにより、練習中に作った感情が浮かび上がってきます。

しかし、現場で感情を呼び起こそうとPGをやっていると、周りの人から奇妙に思われてしまうかもしれません。

というか多分思われます。

その場合はPGを心の中で行うだけで構いません。

それでもちゃんと効果あります。

こうして、感情のスイッチを入れてから芝居に臨みます。

このようにPGは、あらかじめ練習中にセットしておきます。

そして芝居直前に、セットしたジェスチャーをトリガーにすることで感情を呼び起こすことができます。

これは、役の目的に限らず、セリフに感情を乗せたいときにも同じ要領で行えます。

たとえば、

「悪いんだけど1万円貸してもらえないかな?」

こんなセリフに感情を乗せるにはどんなPGを使えばいいでしょうか。

例えば僕だったら「引く」というジェスチャーを選ぶと思います。

相手からお金を「引き出す」。相手の物をこちらに「引き寄せる」。

なので「引く」。

そして、このセリフを唱えながら、ピッタリ合う「引く」のジェスチャーを探していきます。

後は、本番直前に心の中で「引く」のジェスチャーを(心の中で)行えば、感情が乗ったセリフとして口から出てきます。

アーキタイプジェスチャー

このように、PGは簡単にできるし、使い勝手も非常に良いです。

ただ、初めてPGをやる人が困ってしまうのは、

セリフや目的が、どんなジェスチャーと合うのかわからない

というところだと思います。

お金を借りたいという想いは、「引く」じゃなきゃダメなの?「かき集める」だったら?「つかむ」だったら?

繰り返しになりますが、正解はあなたの感性次第です。

だから、あなたがピッタリ合うと思えばどんなジェスチャーでもOK。

とはいえ「そもそもジェスチャーってどんなのがあるんだ?多すぎてわからん」と思うかもしれません。

そこで、PGの原型となるアーキタイプジェスチャーというものがあります。

アーキタイプとは「原型」という意味です。

アーキタイプジェスチャーには、以下の通り14種類の動作の型が用意されています。

14種類のアーキタイプジェスチャー

押す / 引く
開く / 閉じる
抱く / 投げる
ひねる / 裂く
あげる / 叩き壊す
貫く / 殴る
手を伸ばす
集める

この “/” で区切られているのは、対になる動きという意味です。

ひねると裂くが、どうして対になるのかはよくわかりませんが、そうらしいです。

この14種類のアーキタイプはなんのためにあるのかというと、他の動作全ては、これらのジェスチャーの派生として考えられるからです。

たとえば、「引き出す」や「引き寄せる」は「引く」という原型ができていれば、少し動きをいじるだけでできそうな気がしますよね。

「押し込む」や「押しつぶす」も、「押す」と「叩き壊す」なんかを混ぜれば行けそうな気がします。

まずは、この14種類のアーキタイプジェスチャーを自分のものにしてしまいましょう。

やり方は、PGと全く同じです。

アーキタイプジェスチャーができれば、何百種類、何千種類とある派生のジェスチャーも思いつきやすく、実行しやすくなります。

PGを演技に利用する方法

PGの効果の項で、PGをやるメリットがたくさんあることをお話ししました。

ここからは演技にどのように使えるのか、もう少し具体的に見ていきましょう。

・セリフに感情を乗せられる。

・作品全体の役の目的

・シーンごとの目的

まず、上の3つは、実は目的の大きさが違うだけです。

役が、なぜセリフを言うのかを突き詰めて考えてみれば、なにか叶えたい目的があるからです。

例えば作品全体では、「彼女と幸せに過ごしたい」が目的だったとします。

告白のシーン単体では、「彼女に告白をOKしてもらいたい」が目的。

そしてセリフ一文だと、「この言葉で彼女の気を引きたい」が目的。

つまり、

作品全体の目的=大目的

シーンごとの目的=中目的

セリフ一文ごとの目的=小目的

とも表せられます。

だから、PGは目的の大きさを問わず、ジェスチャーにセットして呼び起こせると言えます。

そして、次は障害です。

障害というのは、役が目的を叶えようとする際、邪魔をしてくるものです。

それは、役の心の中の恐怖心や羞恥心ということもあるし、外部からの妨害も考えられます。

「○○ちゃんと付き合いたいけど、断られるのが怖い・・・」(内部からの障害)

「〇〇ちゃんと付き合うなんて、お母さんは許しませんからね!!」(外部からの障害)

内部からの障害は、そのまま役の葛藤として表れます。

PGで表すとすると、

○○ちゃんと付き合いたい(目的)=「抱く(抱きしめる)」というPG。

断られるのが怖い(障害)=PGが最後までできない。

抱きしめようとジェスチャーをし始めるけども、動きを完結できない。

こういった動きの中断から、葛藤を作れます。

蛇足ですが、動きをただ途中で止めればいいわけではないですよ。

「抱きしめたい。でも怖い」という意識が、動きの中断部分でぶつかり続けるから効果があります。

次は、外部からの障害の場合。

この場合は、あなたの気持ちから離れて、まず外部(例の場合、お母さん)目線でPGを行います。

例えば、お母さんからすると「叩き壊す」のようなPGがしっくりくるかもしれません。

だから、叩き壊すジェスチャーを何度かやってみる。

そして、そのジェスチャーと、ジェスチャーに籠められた想いを、自分がモロにくらっていることを想像します。

つまり、あなたが叩き壊されているのを感じてみます。

ただ、そのまま叩き壊されてるだけでは、障害に負けてしまいます。

なので、それとは別に「抱きしめる」というあなたの目的のPGも行います。

すると、叩き壊そうとしてくる障害のプレッシャーと、抱きしめたい(付き合いたい)という想いが拮抗します。

このように別々のPGをすることによって、外部からの障害に悩まされつつも、目的を達成しようとする役の気持ちを感じることができます。

まとめ

この記事では、マイケルチェーホフテクニークの奥義 “PG(サイコロジカルジェスチャー)” について解説しました。

ここまで読んでいただいた通り、やり方さえわかってしまえば、使い勝手が非常に良いテクニックです。

「文字を読んだだけでは、いまいちわからん」ということでしたら、一度アーキタイプジェスチャーの中から一つ選んでやってみると良いと思います。

マイケルチェーホフテクニークでは、よくサイコフィジカルという言葉が出てきます。

なぜなら、精神(サイコ)と肉体(フィジカル)を連動させるテクニックがとても多いからです。

このPGなんてまさにそうですよね。

別の記事に、芝居本番で感情を呼び起こすには、なにかのトリガーが必要だと書きました。

このPGでは、自らの動作(フィジカル)をトリガーにして、セットした感情(サイコ)を呼び起こします。

感情を呼び起こすトリガーは、他の演技論(術)にもそれぞれあります。

スタニスラフスキーでは、「身体的行動」

メソッド演技では、「五感の記憶」

イヴァナ・チャバックでは、「MB(モーメントビフォー)」

チェーホフのPGは、スタニスラフスキーの身体的行動の動作を、単純化したジェスチャーに落とし込んだものとも考えられるかもしれません。

それぞれの感情のトリガーについては、こちらの記事に詳しく書いてありますので、ご覧ください。

芝居中に、感情が出てこなくて地獄を見たことがある方には必見の記事です。

最後に一つ。

本記事文中に、

「メソッド演技は、時間はかかるし精神に負担はかかるしコスパが悪い。でも、できた時の爆発力はすごい」

と書きました。

爆発力がすごい理由は、やっぱり長時間かけて役の内面を丁寧に探っていき、役と心を通わせていくからです。

僕は今後俳優として、メソッド演技と、このPGは併用していこうと考えています。

どちらも一長一短。

がっつりメソッド演技だけだと、いつか病んで死ぬなと本気で感じてますし、役作り期間が短い場合は対応しきれません。

逆にPGだけだと、メソッド演技で役作りしたときほどの奥深さに到達できてないんじゃないかと思ってしまいます。

辛いけど、内面もしっかり作りたい。

いろいろな意見はあると思いますし、どう選ぶかも個人の自由です。

どれか一つの演技論を選ぶにせよ、複数の教えを混ぜるにせよ、全ては良い演技をするためであるはずです。

僕は一つの演技論にこだわらず、使える知恵やテクニックは吸収して利用していきたいなと思っています。

もしあなたも他の演技論に興味がありましたら、こちらの記事が参考になると思います。

メソッド演技について詳しく知りたい方はこちらです。

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