※2021/6/15 追記 五感の記憶は演じる直前までの部分加筆・修正
※2021/5/15 全体のリライト+俳優に与える影響部分を加筆
メソッド演技って危険とか、すごいとか聞くけど、結局どういうものなの?
と疑問をお持ちの方に向けて記事を書いていきます。
この記事を読むと以下のことがわかります。
メソッド演技とは何か
メソッド演技が俳優に与える影響について
基本練習「五感の記憶」のやり方
どうも俳優をやっているヒロユキと言います。
僕は今年で俳優歴13年目になります。事務所に所属していないこともあり大きい作品には出ていませんが、それでもTVドラマ、映画、舞台、ラジオドラマ(製作、脚本、主演)など色々な媒体に出演してきました。
また、この13年間「演技とは」ということを考え続けてきました。その間にスタニスラフスキーシステム、リーストラスバーグメソッド、マイケルチェーホフテクニークなど様々な海外の演技論も学び身体に落としてきました。
この記事では、メソッド演技とはどういうものかの解説をしていきます。
とくに、メソッドの基本練習「五感の記憶」は、主に映像芝居に役立つテクニックです。
習得するまでにかなり時間がかかりますが、できるようになると一言で言うと便利です。その理由と方法をお伝えしますね。
それではさっそくスタート!
メソッド演技とは
昨今、少年ジャンプの漫画「アクタージュ act-age」や日本の俳優が学び始めた影響で、日本でもメソッド演技の知名度が上がってきています。
ただ今のところ、どちらかというと悪い印象の方が強いように見受けられます。
映画ファン「メソッド演技って危険なんでしょ?やってた俳優が死んだとか話聞くし」
演劇関係者「へ~、メソッドをやってるんだ。そういう人とは話したくないんだよね」
確かにメソッド演技にはメリットとデメリットがあります。だからそのような意見が生まれるのもよくわかります。
実際、シアターゲームという練習法(?)で有名な演技コーチ、ステラアドラーも過去にメソッド演技の危険性を指摘していますし、実際に学んでいたロバート・デ・ニーロ(ゴッドファーザーⅡ)や、アンソニー・ホプキンス(羊たちの沈黙)も、メソッド演技に懐疑的です。
そんなメソッド演技とは結局なんなのでしょうか。
ざっくり言うと、メソッド演技というのは自分の過去の体験から役の本当の感情にアプローチする方法です。
自分の実際に体験した過去から感情を湧き上がらせます。
正確には、自分の過去を通して役の悩みや考えに共感していくことで役作りを行っていきます。
ですので、想像だけで役の感情を作るよりも力強く爆発力があります。
ただその反面、自分のつらい過去や体験を再体験するので、精神的におかしくなりやすいです。
具体的に言うと自分自身のトラウマを目の前に引っ張り出して、何度も味わいなおします。
僕の例で恐縮ですが、結果として僕は電車の中で涙が止まらなくなったり、本番前に役とケンカしたりしました。
役とケンカって当然ですけど、役は目には見えません。
それなのにケンカになる。
見えない役に向かって実際に声を荒げるし、部屋の中で物とか投げまくったりする。ノイローゼですね。精神疾患。
だからアメリカの俳優には、大体専属のカウンセラーがついています。
日本ではまだ考えられませんけど、もしメソッド演技が日本に広まることになったら、俳優個人個人にカウンセラーは必須だと思います。
危険性について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
さて、よく言われる危険性が上記のものですが、僕の先生はもう一つメソッド演技のデメリットを挙げていました。
それは、
演じる時に動きが小さくなりやすい
ということです。
どういうことかと言うと、メソッドをやろうとする俳優や団体は他と比べて、感情を意識することが多く、「感情から行動が生まれる」と考えがちです。
決してそれは間違いではないんですが、その認識でしか役作りをしないと、自分の中から生まれる動きしかできません。
例えばジムキャリーが演じたマスクのような、明らかに普通じゃないキャラクターに変身はできません。
これにはキャラクターライゼーションという別の訓練が必要になります。
そしてまた、感情を意識しすぎる人は、ほぼイコールでリアリティへのこだわりが強い人でもあります。
したがって、嘘っぽくみられる演技をすることに拒否反応がとても強いです。
だから「リアルにリアルに・・・」と意識してしまい、やはり動きが小さくなってしまいます。
逆に感情を強く出す場面(号泣する、泣き叫ぶ、怒鳴り散らす)ではとてもパワフルです。
いわゆる誰もが考えるすごい演技というものにはなりやすいと言えます。
やはり自分が体験した過去を利用した方が、想像だけで作った想いよりも強力になりやすいからです。
これがメソッド演技のメリットデメリットです。
メソッド演技が生まれた背景
メソッド演技は、演劇界を変えたロシアの演出家スタニスラフスキーの弟子リー・ストラスバーグが考え出しました。
元々ストラスバーグは、ロシアでスタニスラフスキーの元で演技を学んでいた人物です。その後、ストラスバーグはアメリカに帰国し、アクターズスタジオという施設(養成所)を創設しました。ここでストラスバーグが教えた演技法をメソッド演技と言います。
ちなみに、ここは学校ではなく、あくまで俳優の技術を伸ばすための施設です。そのため入学金授業料をとらず、寄付で賄っています。ポールニューマンなどこの施設から有名になった俳優が寄付することが多かったようです。
このアクターズスタジオからはあなたも知る名だたる俳優を数多く輩出しています。
1900年代、2000年代のハリウッド映画がこれだけ世界に広まった理由の一つは、このアクターズスタジオ出身の俳優たちの演技によるものです。
それでは、アクターズスタジオからはどんな俳優が排出されたのでしょうか。
名前を挙げていくと、
ポールニューマン、マーロンブランド、アルパチーノ、アンジェリーナ・ジョリー、アンソニー・ホプキンス、クリストファー・ウォーケン、エレン・バースティン、ケヴィン・スペイシー、ジーン・ハックマン、ジャック・ニコルソン、ジュリア・ロバーツ、ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ・ブラッドリー・クーパー、デニス・ホッパー、スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマン、テネシー・ウィリアムズ、ハーヴェイ・カイテル、ショーン・ペン、ゼンヒラノ・・・・・・
あなたも知っている名前があったのではないでしょうか。
この最後に記載したゼンヒラノさんは日本人で、彼が、このメソッド演技をアメリカから日本に持ちこんだと言われています。
ちなみに僕の演技の先生は、このゼンヒラノ先生のお弟子さんに当たります。
ゼンヒラノさんは数々の演技書籍を翻訳などもしているので、ご興味があったら読んでみてください。
さて話は戻りますが、メソッド演技を作りだし教えたリー・ストラスバーグの師匠スタニスラフスキーは身体的行動というものを大切にしていました。
これは、舞台上でも日常と同じ意識を持ち行動することによって、その行動から日常と同じ感情がわきあがってくるという方法論です。
つまり、スタニスラフスキーの教えには「行動によって感情が呼び起こされる」というものがあったんですね。
つまり
行動⇒感情
です。
そこから考えると、リーストラスバーグのメソッド演技はこの師匠の教えとはだいぶ違っています。
彼の方法論は、行動からというより、感情の強さが行動に影響を与えるものと言えます。
つまり
感情⇒行動
です。
逆にこの二人の共通点は、観客にどうアピールするかという視点を持たず、どちらも自分の役、相手役、そしてその状況に意識を集中しているということです。
つまり意識するべき対象は舞台上にのみあって、観客の反応については考えないということになります。
撮影だったらスタッフやカメラを気にしないで演じるということです。
どちらの演技論も与えられた状況の中で役として生活するという考えが中心にあります。
俳優は演じる時に、設定の中の役として生活しているはずです。
その役が設定にないカメラや観客に意識を向けていたら、おかしいですよね。
役の意識と役者の意識が混ざってしまっています。
だから、「感情から行動 or 行動から感情」は問わず、役としてそこにいるという根幹は両者とも同じなわけです。
メソッド演技「五感の記憶」解説
それではメソッド演技の基本となる「五感の記憶」と言う練習法をここで紹介します。
その名の通り、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を思い出す練習です。
ちなみに、こちらの記事で架空対象行動という似たような練習法を紹介しました。
この架空対象行動は、意識をどこにどのくらいの割合で向けると日常と同じように感じられるかという練習でした。師匠のスタニスラフスキーが教えた練習方法です。
スタニスラフスキーは架空対象行動という名前ではなく「注意の輪」という名前で教えていました。
この五感の記憶もやり方は若干似ていますが、こちらは意識の方向よりもそのときの感覚を思い出すことにのみ集中します。
正確に言うと、思い出すというよりその場で実際に感じるということかな・・・
たとえば、
雨が降った後のアスファルトの匂い、
せみの鳴き声、
砂浜をはだしで歩いたときの感覚、
夕ぐれ時に流れる雲、
ココイチのカレーの味
こういうのを実物を使わず五感を使って感じます。座ってても立っててもいいです。実物さえ使わなければ歩き回ったり動いてみるのも構いません。
とにかくぼんやりその匂いや景色や味に意識を傾けてみる。
「海!海!海!」と一生懸命に感じようとすると上手くいきません。
なんとなく「あーー、海来たわぁー・・・・・・・」くらいのゆるさでその想像の場所にいることを感じていると、潮の匂いだったり、砂浜の感触や、太陽の日差しの熱さなどが呼び起こされてくる(ことがある)感じです。
この五感の記憶ができると、想像の世界を信じやすくなります。
まあ、それはそうですよね。
海で何かをするシーンを演じる時に、その砂浜の感じや潮の匂いが浮かび上がってくれば、当然その設定全体を信じやすくなります。
映画の撮影で、スタッフがわんさかいて、カメラに取り囲まれていても、やはり五感の記憶ができれば想像の世界に入りやすいでしょう。
10年以上前になりますが、アクターズスタジオインタビューというアメリカのテレビ番組がありました。毎回一人名優をゲストとして呼びインタビューをするというもの。
その名司会者ジェームスリプトンの著書によると、この五感の記憶は舞台よりも映像演技の方がマッチしていると言います。
なぜなら、映像だとストーリーの頭から順番に撮るわけではありません。
天候や、キャストのスケジュールなどを計算して、撮れるシーンをまとめて撮影していきます。
だから、撮影する順番はバラバラ。いきなりクライマックスからの撮影もあります。
こうなると、一つ一つのシーンの感情を速やかに作り出さなければいけません。
その前のシーンで沸き起こってきた感情を利用するわけにはいかないのです。
この時に、五感の記憶を使ってこれから撮影するシーンまたはその直前のシーンが感覚として作り出せたら、その設定を信じ込みやすくなりますよね。
演じるうえで有効なのが分かるかと思います。
ちなみに、本はこれです。
ページ数が半端なく多いのと、演技の話以外にリプトンさんが製作した作品の話なども書かれている(ここは演技力アップにはつながらない・・・)ので、スラスラ読める本ではないです。
ただ、俳優にとって勉強になることもたくさん書いてあるので、時間があるときに読んでみることをお勧めします。
値段もそこそこするので、一度上のリンクから中古の価格確認してみて予算にあわなかったら図書館を探すのがいいかも。
メソッドの話でもう一つ。
昔、マリリンモンローがアクターズスタジオで一人芝居を演じたことがありました。
蒸し暑い午後に家の中でなんらかの作業をやるシーン(だっけな・・・)を演じたそうです。
彼女は本番が始まる前、一人スタジオの床に座っていました。
周囲の観客(他の練習生)がぞろぞろ集まってきましたが、その時すでにマリリンモンローはお色気の女優として売れていたので、半ばバカにした表情で彼女を見ていたようです。
マリリンモンローは床の上で身動きせず座っていただけなんですが、しばらくすると段々と汗ばんできたらしいです。
これは、その蒸し暑い午後という設定を五感の記憶で思い出せたからなんです(って何かの本に書いてありました)。
それを見ていた観客も驚いて、マリリンモンローって芝居できるんだなと思ったそうです。
このように、ハリウッドのスーパースターも普通に使っている五感の記憶というテクニック。
有効であることは間違いありません。
しかし、ここで注意点!
五感の記憶が使えるのは演じる直前までです。
演じてる最中に、風が肌に当たってる・・・とか、コーヒーの匂いはこうだったっけな・・・とか五感に意識を向けるのはやめましょう。
五感の記憶の練習にはまると、結構やりがちです。
本番中に意識を自分の五感に向けると、実際の演技がおろそかになるだけです。
僕ら日常生活で「今、〇〇の音がする」「コーヒーの温度はこれくらい」「この寿司は酢が効きすぎてる」など常に気にはしないですよね。
どの場合も、意識を向けて気が付くことはあっても、たいていはもっと身近な他のことに意識を向けて生活しています。
ですので、五感の記憶は演じる直前の導入部分につかいましょう。期末テストの5分前みたいな感じです。演じてるときはその設定の中で役の人生を生きましょう。
※2021/6/15 追記
五感の記憶は演じる直前の導入部分にと書きましたが、五感の記憶を日々鍛錬して使いこなせるようになった場合は別です。
使いこなせている状態=ほぼノータイムで想像上の物の感覚が蘇らせれる状態とします。
このレベルであれば「五感の記憶をしなきゃ」という意識にならず、即座に感じられるため、肝心の演技に悪影響を及ぼしません。
そして、五感の記憶が芝居上で使えることも実は結構あります。
①ウイスキーを飲むシーン
実際にウイスキーを飲むと酔ってしまうので麦茶などで代用しますが、この時ウイスキーの匂い、味、飲んだ後の食道が焼ける感じなどがあると、よりリアルに近づけます。
②数億円するツボを運ぶシーン
実際に使われるツボは100均のものかもしれませんが、あたかも本物のような装飾、腕に感じる重さなどがあると、持ち運ぶリアルさが全く違ってきます。
これらが演じてるときに瞬時に思い浮かべられるレベルであれば、五感の記憶は演じてる最中にも使えます。
ただ一生懸命思い出さないと使えないようであれば、ここはあくまでなんちゃってで、
「これはウイスキーなんだ」「これは高価なツボなんだ」と仮定してやるしかありません。
さもないと他の部分に悪影響を及ぼしてしまいます。
それでは具体的な練習方法を説明します。
まずは「架空対象行動」と同じくホットコーヒーがいいと思います。
飲めない人はコーンスープでもお茶でもあったかい飲み物ならOK。
まず、コーヒーを飲もうとコップを手に持ちます。そして一つ一つ感覚を確かめていきます。
・コーヒーの重さを感じられてる?
・コーヒーの匂いはする?
・マグカップの熱さはわかる?
・ちょっと飲んでみて、どう?味感じられる?
こういうことをやっていきます。
実際のやり方は下の動画を見てみてください。
繰り返しになりますが、ただ集中して「感じよう感じよう・・・」としても感じられるものではないです。
力を抜きまくって、あまり期待せずやっていると、ふっと「あ、きた・・・」ってくらいです。
僕自身、五感の記憶がとても苦手なので、あんまり感覚について説明できないんですけども、たまに上手くいくときはそんな感じです。
人によって聴覚がやりやすい、嗅覚がやりやすいなど個人差があるようです。
コーヒーができるようになったら(もしくは飽きたら)、
日なたぼっことシャワーがお勧めです。
想像で身体中に太陽の光を浴びているのと、あったかいシャワーを浴びているのを感じてみてください。
もしかしたらコーヒーよりもやりやすいかもしれません。
コツはとにかくリラックス。
出来ても出来なくてもいいやー。くらいのゆるさでやっていくと上手くいきやすいです。
まとめ
メソッド演技とは、リー・ストラスバーグがアクターズスタジオという養成所(施設)で教えた演技法。
想像ではなく、役者自らの過去を使って役作りをするので、強力な感情が出てくる反面精神に障害が起きやすくなる。
俳優に与える具体的な危険性はこちらの記事を参考に。
基本練習「五感の記憶」とは、五感を使って特定の感覚を思い出すこと(実際にその場で感じること)。
夕立の後のアスファルトの匂い、砂浜を裸足で踏んだ感触、ココイチのカレーの匂い、コップに入ったホットコーヒーの匂い、重さ、熱さなど。
五感の記憶は実際に演じてるときにはやらずに、演じる直前にシーンの設定を信じ込みやすくするために使う。
すぐにできるものではありません。
とにかくリラックスして、出来ても出来なくてもいいやー。くらいの感覚で毎日ほそぼそとやってみてください。
あと、参考として「メソード演技」という本から、五感の記憶と感情の記憶部分を抜粋してわかりやすく説明した記事も載せておきます。
youtubeに、この内容を動画としてアップしました。
正直内容自体は、このブログ記事の方が細かく書かれてます。
でも、あなたの演技力アップに役立つ他の動画も用意してますので、良かったらyoutubeのチャンネル登録もお願いします。